「日本古代史を科学する」を読む

2021-03-17

日本古代史を科学する (PHP新書)

 

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一口コメント

お医者さんの書いた「科学的」かつ「非科学」な古代日本史。説得的な部分から、非論理的な部分を除くと、わかりやすい古代日本史の見取り図になるが、さてどうだろう。

私的検討

まず、21世紀の科学について述べた1章は、この限りではいいだろうが、著者自身がその方法を、対象を「日本古代史」にして適用できるのかどうかが問題である。第2章、3章は、「里」という単位が、魏晋朝短里であるとして、一里約60メートルとする。

そして魏志倭人伝の記述、空から見た地形(宇宙考古学)から、邪馬台国は日向であるとする。さらに、ここから北に多くの国を抽象的に並べてあるから伝聞であること、南の狗奴国は熊襲の前身である曾於であるとすることも、なるほどと思う。後で出てくるが、当時から後代にかけて、博多の奴国、中国地方の出雲が勢力を持っており、結局、これらの国を押さえて、邪馬台国(大和朝廷)が東征をはたしたとする。

また、歴代の天皇の在位年数を統計的に処理すると飛鳥朝以前の天皇の在位年数は長く改竄されていることがわかるので、これを統計的に修正すると、卑弥呼は天照大神に比定できるとする。そうすると古事記の記述が、おおむね歴史に沿っているということになり、日本古代史の見取り図が腑に落ちる。

ただ、大和朝廷の4王朝交代、出雲や奴国との関係を、日本人男性のY染色体ハプロタイプや米のRMI-b遺伝子、記紀の記述等から、これらの王朝は、直接、中国、朝鮮からの政権、亡命政権の移転ととらえて説明しようとするのは納得できない。確かに、倭国は、中国、朝鮮の端で、人間も、文化もそこから伝播したことは当然であるし、政治的な理由から多くの人間が流れてきたことも事実であるが、倭国で、そのままそれらの集団の政権、亡命政権が展開されたわけではないだろう。一番疑問なのは、言語である。そのような状態であれば、これらの王朝で使用されるのは、当時の中国語、あるいは大和言葉との混血語になり、また邪馬台国においても漢字が使用されて当然だが、そうではないだろう。そこは考え直されて、もう少し科学的な仮説を提示された方がいい。

でも、一生懸命考えることはいいことだ。

詳細目次

  1. 1 二十一世紀の科学
    1. 人文科学
    2. 物理学の終焉
    3. 考古学への応用
  2. 2 「魏志倭人伝」
    1. 初期条件
    2. 前提設定
    3. 『周臂経』と魏晋朝短里
  3. 3 邪馬台国への道
    1. 伊都国
    2. 宇宙考古学
    3. 投馬国
  4. 4 「記紀」
    1. 邪馬台国
    2. 数理考古学
    3. 天照大神
  5. 5 太伯と徐福
    1. 二つの金印
    2. 弥生の誕生
    3. 臥薪嘗胆
  6. 6 二つの出雲
    1. 呉越同舟
    2. 殷周革命
    3. 国譲り
  7. 7 四王朝説
    1. 神武王朝
    2. 崇神王朝
    3. 応神王朝
    4. 継体王朝
    5. 万世一系
  8. おわりに

要約・抜粋と考察

特にない