組織の問題解決

簿記と会社について

簿記と会社が,現代資本主義の発展を支えたと言われる。どういうことだろうか。コーポレートガバナンスについて考える前に,簿記と会社について概観しよう。

簿記について

簿記についてはほとんど門外漢の私も,ストックである,資産=負債+純資産(資本)と,フローである,費用と収益の記帳から,BS,PLが作成され,利益が算定されるという過程をたどるのは心地よい。

ただ簿記には謎が多い。なぜ,借方,貸方というのか(内容とは関係ないが,かり,かしの,り・しの字の曲がり方から(丿・し),かりが左,かしが右と記憶するのだそうだ。),上記の過程は社会に埋め込まれたものが発見されたものか,人間が発明したものか,それとも「数学」と違ってこのような問題を問うこと自体がナンセンスなのか。「ルカ・パチョーリ」が「複式簿記の祖」といわれるが,彼がイタリア語で書いて印刷・頒布された数学書「スムマ」の一部に,当時既に用いられていた簿記を紹介したことから,簿記が広く伝播したのであって(そのポイントは,俗語であるイタリア語,印刷),「複式簿記」は彼の独創ではないようだ(「会計の時代だ」(著者:友岡賛))。

簿記は現代社会の「カネ勘定」を理解するための必須のツールなので,頭が柔軟な時期の中学,高校の数学あるいは社会科のどこかに組み込めばいいと思う(なお簿記のごく初歩的な入門書は,Kindle本の「ふくしままさゆき」さんの本が安くていい。あるいは会計も兼ねて「図解 簿記からはじめる企業財務入門」(著者:津森信也)も良さそうである。これらの本の紹介で,簿記の概観に代えよう。)。

会社-会計について

会社制度の基本を理解するためには,会社法の本を読むより,まず会計の本の最初の部分を読んだ方がよい(前掲の「会計の時代だ」(著者:友岡賛)が手頃だ。)。

会計とは「委託者(資本の持主=株主)が,その財産の管理(保守・運用)を受託者(経営者)に委託した場合に,委託者が自分の行なった財産の管理の顚末を,委託者に対して説明すること(accounting)」である。この財産管理の委託,受託。報告の仕組みを制度として定着させたのが会社である。

会社は,16世紀末~17世紀のイギリス,オランダの東インド会社が海外との貿易(香辛料,綿・絹織物,陶磁器等々の持ち帰り)のために必要となる多額の資金を,多くの人から分割して集めて一定期間継続して保有し,資金提供者は最終的な利益配分とは別に資金(株式)を譲渡することでこれを回収できる仕組みから生まれたとされる。ただこのあたりの歴史の説明は資料によって錯綜しており,世界最初の株式会社は,1602年にオランダで設立された東インド会社で,証券市場もその頃生まれたという説明をうのみにしていいかどうかわからない(この辺りの経緯は面白そうなので私,は「東インド会社とアジアの海」(著者:羽田 正)歴史書を読み始めたが,東インド会社に先行する100年間のヴァスコ・ダ・ガマに始まるポルトガル人のインド,アジアへの銃,大砲による暴力的侵攻を読んでいるうちに気持ちが悪くなり,またこの本のターゲットも制度の説明にはないようなので,いったん読むのをやめてしまった。)。

ところで,今の会社法では,株式会社の基本的特質として,①法人格,②有限責任,③株式の譲渡性,④取締役会の授権のもとでの経営,⑤出資者による共同の所有,⑥出資払戻請求の制限が挙げられるが(「会社法入門」(著者:栗原脩),東インド会社はこれらはほぼ充たしているが,②が少し遅れたという説明がされる。

会社による財産管理の基本は,⑤④であって,会社制度の進展によってその他の部分も整備されたことにより,会社が次第に財産管理の主要なツールとして用いられるようになったと考えられよう。ただ東インド会社の時点で取締役(会)の性格が何であったかは,今ひとつはっきりしない(「世界史の窓」「オランダ東インド会社」には「大口出資者76名が重役となり,その中から選ばれた17人が取締役会を構成し,連合会社全体の経営方針を決定した。十七人会に東インドにおける条約締結,戦争の遂行,要塞の構築,貨幣の鋳造などの権限が与えられた」とあり,東インド会社は,今では行政(国家)しか行えないと考えられている権能も,行政(国家)から与えられていたようである。)。

要は,委託者(株主)が財産(お金)を出し,受託者(経営者)がその管理をする仕組みが会社であり,財産管理の結果がどうなっているのかをお金を用いて説明するのが会計であり,この説明には,複式簿記による記帳に基づくのが適しているのである。

会社-監査について

会計報告は,経営者が株主にするものであるが,経営者が株主に,ちゃんとやっていますと言うだけでは,信用されるかどうか。そこで経営者以外の者が,経営者が株主にする会計報告について,それがちゃんとしたものかどうかを検査し,ちゃんとした報告が行われるように監督することが必要となる。それが監査である。

さらに監査が,経営者から独立した専門的な知識があるプロフェッションによって行われれば,株主は納得,安心できる。その役割を果たすのが日本では,公認会計士である。

コーポレートガバナンスへの道筋

株主は会計-監査だけでいいのか

さてこれまでの記述は一本道であった。しかし株主の手許に来た前年度の財産管理の報告(会計報告)が手続,内容においてちゃんとしたものであったとして,それが大赤字であった場合,とてもよかったとは言えない。株主としては経営者の選任を考え直さなければならないし,そのような結果になる前に,経営者の行為(業務執行)をコントロールできなかったのかという問題もある。あるいは,黒字であっても,その利益を上げる方法が極悪非道であって(あるいは単に「損失隠し」をしていただけでも),早晩,会社が解体に追い込まれるようでは,元も子もないし,経営者が,ちゃんとした会計報告に記載された現金を横領しているかもしれない。よくできる有能な経営者なら,プロフェッションの監査をかいくぐって,いろいろなでたらめをしているかもしれない。会計監査だけでは,すべてはうまくはいかない。

経営者の行為(業務執行)を監督する仕組み

そこで株主に代わって経営者のする行為(業務執行)自体を監督する仕組みが必要となる。その仕組みが取締役会であり,監査役である。さらにはこれを変形した委員会型(指名委員会等設置会社,監査等委員会設置会社)の会社もある。これがコーポレートガバナンス(企業統治)の大きな内容になっている。コーポレートガバナンスはどのような形態,規模の会社でも問題になるが,以下では,主に資本市場で人のカネを集める上場企業を念頭に置く。

以上のように見てくると,会社の経営者は悪人だらけなのかと言いたくなるが,ことほど左様に,人には,監視なしに他人のお金を扱えると,自由自在に振る舞いたくなる強い性癖があるようだ。自由自在というのは,横領だけではない。経営者の思慮を欠く,作為,不作為によって,会社のお金はどんどんなくなるということだ。

業務執行の仕組みは複雑だ

会社の業務執行とは何か

会社の業務執行(広義)は,①業務執行の決定+②その具体的な業務執行(狭義)からなり,その中には,ⅰ対外的な業務執行とⅱ体内的な業務執行がある。ⅰは,代表,代理の問題である。

②を行なうのは,ア代表取締役,イ業務執行取締役,ウ使用人である。

①を行なうのは,エ取締役会と,ア代表取締役,イ業務執行取締役である。エ取締役会は①業務執行の決定を行ない,重要な業務執行の決定(法定決議事)以外は,ア代表取締役,イ業務執行取締役に委任できる。代表取締役は,明示の委任がなくても,日常的な業務の決定ができる。

代表取締役は,以上の業務執行を他の業務執行取締役や使用人に,業務執行取締役は使用人に委任できる。

取締役会・監査役の職務

取締役会は,業務執行の決定,取締役の職務執行の監督(使用人の指揮監督を含むから,結局,会社の業務全般),及び代表取締役の選定,解職を行う(会社法362条2項)。

監査役は,取締役(会計参与設置会社にあっては,取締役及び会計参与)の職務の執行を監査し,監査報告を作成しなければならない(会社法第381条1項)。

さて,ここで経営者,使用人の業務執行について,取締役会の監督,監査役の監査が出てくるが,これが実効的な機能を果たしているのかという疑問が,近時のコーポレートガバナンスをめぐる大騒動の問題意識である。私としては,制度の問題か,人の問題かと問われれば,後者が大きいというのが率直な意見である。制度を改めれば問題はなくなるということではなく,人をどう変えれば問題がなくなるのかということではないかと考えている。

この続きは「 「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」を読む…コーポレートガバナンスの基礎2」に書く(予定である。)。

更に日和が良く,飽きが来なければ,次の投稿も準備しよう。

企業の財務3表と経営を理解する…コーポレートガバナンスの基礎3

上場企業の企業価値と経営を理解する…コーポレートガバナンスの基礎4

監査役と社外取締役の職務…コーポレートガバナンスの実践1

「グループ経営入門」を読む・持株会社と子会社 …コーポレートガバナンスの実践2

「コーポレートガバナンスコード」を理解する…コーポレートガバナンスの実践3

 

 

 

法とルール

会社設立と定款作成

弁護士が会社設立の手続をするときは、当然、定款も作成することになる。会社設立時の定款作成、会社設立登記、その他若干の問題についてまとめておく。

会社定款モデル案

会社定款を作成するとき、基本とするのは、日本公証人連合会のWebサイトに掲載されている「定款記載例」だ。

①「小規模会社(非公開、取締役1名、監査役・会計参与非設置)」

②「小規模会社(非公開、取締役1名以上、取締役会非設置、監査役非設置会社」

③「中規模会社(非公開、取締役3名以上、取締役会設置会社、監査役設置会社)」

④「大会社(公開会社、取締役会設置、会計監査人設置、委員会設置会社)」

の4例が出ている。最初から④を設立することは余りないだろうが、設立する会社を①~③のどのタイプにするかは、その会社がどの程度の仕事をし、どのように運営されるかを、よく考えてから決めた方がいい。③より②を選択すべき場合も多い。

会社の設立

会社の設立手続の種類

発起設立と募集設立。通常は、発起設立の方法による。

事前準備

  • 定款案の作成(発起人の実印押印)+発起人の印鑑証明書+委任状(発起人の実印押印)
  • 代理人が公証役場へ出頭(代理人は、「発起人本人がその記名押印を自認している旨、陳述」する。)
  • 会社代表者印等の作成
  • 出資金振込のための発起人の個人口座の準備
  • 出資金の振り込みが先行しても、フォロー可

会社設立の際の費用について

  • 公証役場の費用は9万円強(定款の認証費用…5万円、印紙…4万円、定款謄本作成費用…約2千円)
  • 法務局に納付する登録免許税は、出資金の1000分の7(最低15万円以上)
  • 会社代表者印等の作成費用
  • 代理人の手続費用

会社設立登記の若干の問題

  • 法人登記については、法務省に書集式がある。
  • 登記の事由は、「発起設立の終了」、登記すべき事項は「別添CD-R」のとおりとする。
  • 定款で取締役、監査役を定めたときは、就任承諾書。代表取締役を選任するときは選任決議書と就任承諾書。定款に定めがない場合は、発起人による取締役、監査役の選任決議書。
  • 取締役がひとりの場合でも、登記にあたっては「取締役」、「代表取締役」両方を記載し、登記申請も代表取締役で行う(会社法349条1項)。
  • 添付書類は、定款、代表取締役の印鑑証明書、払込みがあったことを証する書面+発起人決定書、就任承諾書である。
  • 資本金の額が会社法及び会社法計算規則の規定にしたがって計上されたことを証する書面(資本金の額の計上に関する証明書)を作成する。

定款作成で注意すべきこと

  • 英文表記は、Co.,ltd.が普通だろうが、Co.Ltd.でいいのではないか。最後のピリオドの不要節もある(Limitedの最後のdで終わっているので)。
  • 会社の目的は登記官の審査の対象にならないが、営利性、明確性、適法性が必要とされる。完全子会社を有するときは子会社の目的も含まれなくてはならないとされる。
  • 発行可能株式総数につき、公開会社では、設立時発行株式総数の4倍を超えてはならない。公開会社でなければOK.
  • 株券は原則不発行であるが(会社法214条)、しっかりしたビジネスをするのであれば、発行しておいた方がいいのではないか。
  • 株主総会の招集の通知について、会社法299条参照。
  • 取締役会の招集の通知について、会社法368条。短縮を考える。
  • 取締役会の決議の省略については、会社法37条参照。
  • 監査役会を設置するのは相当大規模な会社である。

参考文献

私が主として参照するのは、「会社法実務解説」、「商業登記書式精義」、「会社設立の登記マニュアル (新商業登記シリーズ)」、「新会社法の定款モデル―定款作成・変更の記載実務」、「「会社設立」書式ハンドブック―一人でできる会社設立!」、「ダンゼン得する 個人事業者のための会社のつくり方がよくわかる本」である。

法とルール

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原書:Working With Contracts: What Law School Doesn’t Teach You

一口コメント

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