本の森,日々雑感

大晦日に書きかけたこと

2018年の「大晦日にこの記事を書きかけたが,やり残したままあっという間に今日(2019年1月7日)になってしまった。「今年もあっという間に大晦日だ。今年は去年より比べて,だいぶ充実したときを過ごせたような気がする。更に来年は踏ん張ろう」で始まり,今後作成する記事の「目論見」を書く段取りだったのだが。

松岡正剛さんの初期の本に本は10冊くらい並べて,最近の本には30冊くらい並べて読み進むと書いてあった。ここ1ヶ月くらいの私がそれに近い状態だった。松岡さんはR本(現物本)だろうが,私はKindle本だ。でも,30冊のR本をとっかえひっかえするのは大変だろうが,Kindle本なら,同時には見られないが,30冊でも,100冊でも読み替える操作は簡単だ。

「教養」の逆襲

ひと時,教養は卑しめられ,人文・社会科学は,大学から追放されそうになった。「役に立たない」ということだろうが,教養のない人の言いそうなことだ。だが,最近,教養陣営の逆襲が目立つ。

通常イメージされるいわゆる教養(歴史,哲学,文学等々…)は,過去の事象に学ぶ,視野を広げ,フレームを切り替え,問題を俯瞰する,新しいアイデアを得る等々の意味で,間違いなく役に立つ。教養は役に立たないという人たちが考える「役に立つ」知は(主に自然科学を念頭に置くのだろうが),科学としても。射程が短く,一時的で,脆弱だ。科学のほとんどは仮説であり,教養は科学を準備する助走であるというぐらいの捉え方が正しいのだろう。あるいは,教養は,助走+科学の全体というのがいいかもしれない。

ただ教養陣営にも問題はある。得てして教養に立てこもりそれだけで自足して,問題解決に役立てようという意識に乏しいことがある。

「教養」を論じた本は多いが,ビジネス,経済を視野に入れた異色の本が,「センスメイキング―本当に重要なものを見極める力」(著者:クリスチャン・マスビアウ)である。「デザイン思考」を切り捨てながら,批判的的思考によるセンスメイキングを持ち出し,その五原則として「1「個人」ではなく「文化」を,2単なる「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を,3「動物園」ではなく「サバンナ」を,4「生産」ではなく「創造性」を,5「GPS」ではなく「北極星」」をあげる。ただ,批判的的思考とアルゴリズムを対置し,後者を退けるのはいかがなものか。

わが国にもいわゆる教養を論じた本は多い。最近のKindle本の書名だけをあげておこう。「本物の知性を磨く 社会人のリベラルアーツ」(著者: 麻生川静男),「人生を面白くする 本物の教養 (幻冬舎新書)」(著者:出口治明),「リベラルアーツとは何か」(著者:瀬木比呂志),「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」(著者:菅付雅信),「教養の力 東大駒場で学ぶこと (集英社新書)」(著者:斎藤兆史)等々。

読むべき本のリストをあげる読書論も,要は,教養リストだ。立花隆,松岡正剛,佐藤優,その他大学の先生等とリストは多い。私としては吉本隆明の「読書の方法~なにを、どう読むか~ (光文社文庫)」に一番心が惹かれる。これらはいずれまとめて紹介しよう。

ビッグヒストリー,システム理論プラスアルファ

去年出会った,私にとっては新しい分野が,ビッグヒストリーやシステム理論だ。システム理論の中身をより緻密化するものとして「制度とは何か」(著者:フランチェスコ・グァラ)は極めて興味深い。一方,世界の今現在の全体像を的確に把握するためには,「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(著者:ハンス・ロスリング等)がお薦めだ。基本的に頭に叩き込むべきことは,世界を4つの所得レベル(1日当たり,①~2ドル,②~8ドル,③~32ドル,④オーバー32ドル)に分けると,現在,①が10億人,②が30億人,③が20億人,④が10億人だが,「いまから200年ほど前までは,世界の85%がレベル①、すなわち極度の貧困の中に暮らしていた。現在、世界の大部分は真ん中のレベル,つまりレベル②とレベル③に暮らしている。これは1950年代の西ヨーロッパや北アメリカと同程度の生活水準だ」。「70億人の人口は,10億人単位で見て,アメリカ大陸 ,ヨーロッパ大陸,アフリカ大陸,アジア大陸にどのような割合で暮らしているか。現在は,「1・1・1・4」であるが,2100 年 には「1・1・4・5」で, 世界の人口の8割以上が,アフリカとアジアに暮らすことになり,おそらく次の20年間で,世界市場の中心は大西洋周辺からインド洋周辺に移るだろう」。

この本は,現在の世界の現状の様々な数字について多くの人に質問をし,その回答が専門家を含めほとんどでたらめであるとし,その原因として「10の思い込み」を挙げているが,おそらく上記した数字が頭に入れば,質問への回答も落ち着くだろう。要は,多くの人の頭には,せいぜい初等教育を受けたときの数字しか刷り込まれておらず,それを基本にイメージするからほとんどでたらめになるのではないか。

続情報をめぐって

「宇宙はエネルギー・物質・情報でできている。だが,宇宙を興味深いものにしているのは情報だ」という説明が「情報と秩序」(著者:セザー・ヒダルゴ)にある。

ビッグヒストリー,システム理論の中心にあるのは,「情報」であるが,これをデジタル情報論ではなく,宇宙,地球,生命の中に位置付けようとするのは,「基礎情報学」である。アフォーダンス,オートポイエーシス,ルーマン,ラディカル構成主義等々,なぜ情報学にこんなことが書いてあるのという気もするが,ビッグヒストリー,システム理論に位置付けようとする場合,とても役に立つ。

既に「情報をめぐって」という記事を作成したが,「続情報をめぐって」を考えている。

ここでは「サイバー空間の病理」を検討するが,その前提として,サイバー空間を利用することがどういう力を持つのか,「NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ」(著者:ジェレミー・ハイマンズ, ヘンリー・ティムズ)を一読したい。著者らが「僕たちは,初期のインターネット先駆者たちが思い描いた自由な楽園とはほど遠い,集団農場のような世界で暮らしている感じがしてならない」,「もっとオープンな、民主的かつ多元的な社会を実現しようと奮闘している人たち」によって「正しく用いられた場合には、すばらしい効果を発揮している等々には,共感もするし,励まされもする。

しかし,そのサイバー空間の「新しい力」は,病理ももたらす。便宜,サイバー攻撃と,サイバー煽動と呼ぼう。前者は,破壊や経済的利益を目的とし,サイバーセキュリティが問題となる事象である。後者は,フェイクニュースを流したり,その他の方法により,世論操作を行おうとする手法である。これらに関する本は多いが,全体を概観する本として,「サイバー空間を支配する者 21世紀の国家・組織・個人の戦略」(著者:持永大)を,前者は多くの本があるのでここでは省略し,後者として私が衝撃を受けた「フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器」(著者:一田和樹)を挙げておこう。この本ではロシアが目立つが,「池上彰の世界の見方 ロシア~新帝国主義への野望~」(著者:池上彰)を一読するとなるほどと思える。

これらはいずれも世界,社会の価値を著しく毀損するものであるから,適切な対応をすることが今後の大きな課題である。サーバー空間には大きな「「NEW POWER」があるからこそ,これを利用して,不当な経済的利益を得たり,政治支配をしたりしようとする輩は多い。我が国でもいずれも大きな問題だ。

生命と進化をめぐって

この分野では,「人体はこうしてつくられる-ひとつの細胞から始まったわたしたち」(著者:ジェイミー・A・デイヴィス)と,「タコの心身問題-頭足類から考える意識の起源」(著者:ピーター・ゴドフリー=スミス)を挙げたい。いずれも極めて良質なポピュラーサイエンス本といえるが,論述にしっかりついていくには多少力がいる。ただ今,生命と進化の世界が大きく広がりつつあることがうかがわれて,読んで損はない。追ってじっくりと紹介したい。後者は題名を見るだけで読みたくなるのでは?

人間の健康ということでは,「果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?」(著者:ロバート・H・ラスティグ)が,肥満に由来する病気や,ダイエット問題の核心について,丁寧に,科学的に検討する最高レベルの本だ。これまでの肥満,ダイエット本が幼稚に見える。ただ「果糖中毒」(Fat Chance: The bitter truth about sugar)という題名の翻訳がこの本の論述の広がりを誤解させるが,内容は健康全般にわたる優れた本だ。健康本としては一押しである。

その他にもまだまだあるが,私が消化しきれなくなるので,当面これらの本の内容を紹介する記事を作成していこう。

着地点

ところで,これからどこに着地するの?というのはもっとも疑問だ。私としては,システムとしての社会の要素である法制度の機能を踏まえた今後の情報のありようを問題にしたい。弁護士としては情報法の問題だが,もう少し視野を広げて,ビジネスや政治にも働きかけたい。

 

組織・社会。世界

138億年とは

138億年とは,138億年前に宇宙が誕生したといわれるその年数である。もっともテレビでも放映されたクリストファー・ロイドの「137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史」もあるし,140億年前ともいわれるが,1,2億年くらい大した問題ではない(のかなあ?)。

惑星科学者である松井孝典さんの「138億年の人生論」(Amazonにリンク)というKindle本を見つけたので,読めばきっと雄大な気持ちになるだろうと思って早速購入したのだが,その結果は!

「138億年の人生論」の中で松井さんは,宇宙,地球,生命,文明について何十年も考え続けてきたとするので,それがまとまっているであろう「宇宙誌」を購入しようと思ったのだが,「138億年の人生論」にも出てくる恐竜絶滅の原因を隕石の衝突だと特定した地質学者のウォルター・アルヴァレズが「宇宙,地球,生命,人間」を「ビッグヒストリー(ストーリー)」という観点から書いた「ありえない138億年史~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~」(Amazonにリンク)(「A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves by Walter Alvarez)がKindle本にあることを見つけ,こちらの方が大分内容が新しそうなので急遽乗り換えて目を通してみた。

私は常々,人間や社会の問題を考えるときは,進化論をふまえなければだめだと思ってはいたが,それを更に生命,地球,宇宙(物質とエネルギー)にまで広げて考えようとする「ビッグヒストリー」の試みがあることはこれまで知らなかったが,今回,「ありえない138億年史」を読んで,いたく感銘を受けた。「ビッグヒストリー」は決して「大風呂敷」を広げようとする試みではなく,物事の核心にある物質的な問題の連続(方向性と周期性)と偶然から「人間」をあぶりだそうとするもので,今までの「史観」がいかに狭苦しいものであったかがよくわかる。

取り急ぎこの2冊を紹介しよう。

 

 「138億年の人生論」を読む(Amazonにリンク

著者:松井孝典

出版社等による紹介

“宇宙スケール”で考えると,人生はほんとうにスッキリするのです-。人生の目的とは?教養とは?仕事とは?人間関係とは?宇宙の誕生から文明のゆくえまで,138億年の時空スケールで追究しつくす世界的惑星学者がはじめて綴る,「知的興奮に満ちた100年人生」を送るための25講

私のコメント

松井さんが自分の一貫した努力,現在の立ち位置が誇らしいのは分かるが,若い人をターゲットにした「人生論」だとしても,いささか汎用性に欠けると思う。

人生とは,頭のなかに内部モデルをつくりあげることだという全体を貫く立論は興味深いし,記述のうち,「4 「正しい問い」を立てる」,「10 「ひらめき」は普段から考えている人にのみ訪れる」,「18 過去をふりかえる暇があれば新しいチャレンジを」,「23 英語以前に「日本語で伝えるべき内容」をもつ」,「24 インターネットは歴史に逆行している」等は大いに参考になる。

その他は,お弟子さん,後輩に対する指導,意見,愚痴というところではないか。少なくても私は,雄大な気持ちにはならなかった。

 

「ありえない138億年史」を読む(Amazonにリンク)

~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~ 
著者:ウォルター・アルバレス
A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves by Walter Alvareb (Amazonにリンク

出版社等による紹介

われわれ人間は、なぜここにいるのか? それは人類の歴史だけを見てもわからない。宇宙誕生から現在までの通史-「ビッグヒストリー」の考え方が必要だ。自然科学と人文・社会科学を横断する驚きに満ちた歴史を、恐竜絶滅の謎(隕石衝突)を解明した地球科学者が明らかにする。

歴史は必然ではない。偶然が重大な役割を担っている。宇宙、地球、生命、人間の各領域において、この世界が実際にたどった道とは異なる道をたどる可能性は無数にあった。その結果、今日のものとは異なる人間世界が生まれる可能性もあれば、人間世界がまったく生まれない可能性もあったのだ。そのため、今あるこの世界を理解するには、物理学や化学を超えて、地質学や古生物学、生物学、考古学、天文学、宇宙学などの歴史科学の領域から人間の歴史へと目を向けるべきだろう。これらの歴史科学や歴史学が、今あるこの世界の歴史について学びつつあることを知る必要があるのだ。

私のコメント

これはとても優れた本だ。京大の火山学の先生の鎌田さんが長々と「本書に寄せて」を書いているのも頷ける(なんとなく,松井さんと張り合っている気がする。)。本の内容は網羅的ではなくて,ポイントを点描するという手法だが,それが核心をついている。著者は,「138億年の人生論」でも紹介されているように,親子で恐竜絶滅の原因が隕石衝突であることを解明した子の方だ。

翻訳本の目次だとわかりにくいが,PROLOGUEがIntroduction と1章,COSMOSが2章,EARTHが3~6章, LIFEが7章 ,HUMANITYが8,9章,EPILOGUEが10章という構成だ。

第1章に,隕石衝突の証拠発見のことと著者がビッグヒストリーに取り組んだことが書かれ,第2章に宇宙の誕生から地球の誕生までがまとめられる。

著者は地質学者ということで,地球がどのように人間が利用できる資源(特に砂)生んだのか,(第3章),そして人間の活動を踏まえ,地球の大陸+海(第4章),山(第5章),川(第6章)が語られる。ここで重要なのは,プレート・テクニクスだ。

そして第7章に,人間の体に生命の歴史が刻まれているという観点から,生命の誕生から歴史が語られる。

第8章では人類の移動が語られ,第9章では,言語,火,道具の使用のうち,火の利用と青銅器の製造について詳細に語られる。

そしてエピローグで,歴史の展開について,連続(方向性と周期性)と偶然による2分法を提案する。そして偶然とは,「まれ」であること,「予測不能」であること,「重大」な意味を持つことだとする。

この本は一流の科学者が,哲学をもって,宇宙,地球,生命のみならず人類の歴史にも挑んだもので,その記述には本当に感心させられる。本来,真正面から問題にぶつかるべきであるが,私は「ビッグヒストリー」というのは今回初めて出会った手法であるので,今回は,「ありえない138億年史」のほんの上っ面だけを紹介し,現在ぞくぞくと購入して読解に努めつつある「ビッグヒストリー」関係の本によってその大要をつかみ,改めて全体像について検討したい。

私は,「ビッグヒストリー」によって,偶然と激動の自然の中に,人間をシステムの要素として位置づけることができ,システム思考と突合せできそうだそうだという予感がある。最もそんなことはとっくにやられているかも知れないが。

著者が展開している「ビッグヒストリー」のWebとして,ChronoZoomがある。

なおビッグヒストリーのうち,人間の歴史は,デヴィッド・クリスチャンという人が,ビル・ゲイツさんの協力を得て展開しつつあるようだ。ビッグヒストリーの本の多くに,デヴィッドさんが絡んでいる。

詳細目次

人の心と行動

~世界レベルの名医の「本音」を全部まとめてみた~

著者:ムーギー・キム

ベスト・パフォーマンス編 (Amazonにリンク) 

病気にならない最先端科学編 (Amazonにリンク
 

レイアウトに難あり

「最強の健康法」は,「ベスト・パフォーマンス編」と「病気にならない最先端科学編」の2冊の単行本で構成されている。しかしそのこともすぐには分からないし,本の表紙にも,表紙から目次の間までにも,ごちゃごちゃといろいろなことが書いてあり,しかも,目次も色付きで,ごちゃごちゃといろいろなことがいろいろなレイアウトで書いてあり,率直にいってそれで嫌になる。こんなことで投げ出したくなる本も珍しい。作成サイドは工夫を凝らしたつもりだろうが,度が過ぎている。目次の医師や「専門家」の,氏名のみならず所属の紹介も煩わしい。

後記の詳細目次は,余計な記述を除いて分かりやすくしてみた。項目だけをあげると,「ベスト・パフォーマンス編」が,「消化,食事,食べ方,歯磨き,禁煙,目,歩行,生産性向上,マインドフルネス,うつ病(心理療法),うつ病(食事療法),疲労,疲労回復,水虫,睡眠,不眠」,「病気にならない最先端科学編」「①健康を護る最先端科学」が,「健康診断,糖尿病・高血圧,心臓病,がん,ウイルス」,「 ②若さを保つ最強の健康習慣」が,「アンチエイジング,男性ホルモン(意欲減退、頻尿、ED),薄毛,不妊治療,骨粗しょう症,認知症,人生の終わり方」である。これだけだと,覗いてみたくなるだろう。

内容は悪くない

本書は著者が,医者や健康についての「専門家」約50名から取材した最新の科学的な健康・医療情報を,更に2人の医者・研究者がダブルチェックして上記の項目にまとめたというのが「売り」である。内容もかなり網羅的であるし,個々の記述も平易で参考になるものが多く,「内容は悪くはない」。しかしレイアウトが…。

中でも,誰でも「健康診断,糖尿病・高血圧,心臓病,がん」は気になるところであり,基本的な知識を持つのはいいことだ。

実践的な項目は,特に目新しいことはなく,基本は,減量,運動,食事である。運動として本書の項目にはないが,私はスロージョギングを勧める。

「生産性向上」の「1時間に一度は立ち上がって、体を動かそう─「座りっぱなし」で寿命が縮む」という指摘は,身に染みる。「薄毛」はもうだめなようだ。高齢男性なら「頻尿」はチェックしたい。

ただ,本書以外にも,良書はあるので,追って紹介しよう。

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