山の名作読み歩き 山の文章世界の道しるべ YS003 (ヤマケイ新書)
山と渓谷社
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一口コメント
帯にあるとおり「豊かな山の世界を綴った紀行、記録、エッセー、詩歌のアンソロジー」である。53編も収録されているそうだから1編当たりは抄録も含めて短いものだが、それだけに相応の経験のある山好きには次々とめくるめくような世界が展開されていてたまらないが、この世界に乗れない人にはつまらないかも知れない。
また見慣れない作品も多いが、編者の「固まった既成概念で選ぶのではなく、もっと自由に羽ばたいてみたい」結果なのだろう。
ついでに書くと、実際の本の副題は「読んで味わう山の楽しみ」なのに、Amazonでは「山の文章世界の道しるべ」となっているのは不思議だ。
私的メモ
この本は、手にとって味わってもらえばいいので、あまり私が書くべきこともないが、一つだけ取り上げてみよう。
「山に忘れたパイプ」(藤島敏男)
藤島敏男は名前しか知らなかったが、紹介されている白砂山は、私は2回ぐらい計画したが、未だに登っていない山だ。最寄り駅の長野原草津口から夏の短い期間バスが出ていて、車を運転しない私はその期間しか登れないが、残念ながら過去の計画は流れてしまった。それと、八間山を回ると帰りのバスの間に合うかという問題もあったように思う。花敷温泉に泊まればいいのだが、だいぶ距離がある。
藤島は花敷温泉から白砂山に登っている。野反池が素晴らしく、何度か訪れている、。のちに白砂山から佐武流山へ尾根伝い、苗場山へ抜けたが、「野反湖と池から湖に昇格(?)した野反は、北端に堰堤が築かれて、見る影もないただの貯水池に変わり果てていた」と書いている。その思いは手に取るように分かる。でも、白砂山、佐武流、苗場山というのは、素敵なコースだ。今は荒廃して行きにくいようだが、藤島の頃だってそんなに立派な登山道があったわけではないだろう。
ところで「山に忘れたパイプ」というのは雪道で休憩したときにパイプを置き忘れ旅館の若者が探しに行って見つけ届けてくれたという話だが、藤島は日銀に勤めていて「仕事も遊びも誤魔化しを嫌い、手厳しかった」ことから「あの藤島が忘れものをするわけがない、拾ったパイプ、の間違いだろう」と揶揄した人がいるそうである。笑える。
次に収録された作品名と作者の一覧を載せておく。