組織の問題解決

入門 公共政策学」を読む ~社会問題を解決する「新しい知」 著者:秋吉貴雄

「入門 公共政策学」を読む

相当以前から「公共政策学」という,何をしているのか,中味を想定しづらい学問領域があることは知っていたが,中学社会科の「公民」というネーミングと似たようなうさん臭さを感じ,興味を持つことはなかった。しかし「アイデアをカタチにする」のひとつとして「「政府の政策」を読み,活用する」を取り上げたので,その入口として参考になるかもしれないと思い,表記の本(以下「本書」)に目を通してみた。

まず本書は,「公共政策学」の手法,現状,方向性等をコンパクトな新書の分量に収めた分かりやすい「概説書」,「要約書」として,高く評価できる。

本書のさわりを紹介しよう。本書は,政府の公共政策の立案・実行過程を,①問題-②設計-③決定-④実施-⑤評価に分けて分析する。本書によればこの過程は,社会の「望ましくない状態」が「政策問題」として認識・定義される(①問題),担当府省において解決案(政策案)が設計される(②設計),そして,政策案とともに関連する法案が担当府省で準備され,国会で決定される(③決定),決定された政策は行政機関を中心に実施される(④実施),最後に政策が評価される(⑤評価)と表現することができる。この過程の把握,及び改善策の提言が,「公共政策学」ということのようだ。

「公共政策」の分析手法は社会を把握,分析するツールとして有用だ

それとは別に,本書が対象とする「公共政策」の分析手法-「公共政策」という「窓」を通して社会をみること-は,複雑な現代社会の現状,構造を把握,分析するための極めて有用なツールであるということに気づいた。ただ,それを理解するには,いささか下準備がいる。

考えてみれば政府のするあらゆる行動は,それが例え「戦争」や「原発」,「天下り」であっても,公共政策の立案・実行過程の全部または一部とみることができ,当該立案・実行過程には,政府の役人,政治家のみならず,多様な人間が関与している。政府の行動を,権力者の閉ざされた権力行動や利益追求行動とみるだけでは問題が浮かび上がらない。政府のあらゆる行動を,公共政策の立案・実行過程のどこかの局面における行動として位置付けることで,問題を立体的に把握できる。もちろん「公共」政策だからといって,これに従うべきだとか,私益追及ではないというような意味合いはまったくない。

しかも現代国家においては,政府の行動が極めて大きな比重を占めている(たとえば「社会保障」は,GDPの20%が動き,国家予算の5割を超えるという指摘がある(「教養としての社会保障」)。政府の行動の最も基本と考えられる「秩序維持」のみならず,「経済・金融政策」,「社会保障」,「教育」,「外交・戦争(防衛)」等々,いずれも公共政策である。市民や企業の日常に,このような政府の公共政策が介入する場面は極めて大きく,これを離れて,日々の生活やビジネスは成り立ちがたいだろう。

したがって「公共政策」という「窓」を通すことによって,市民や企業の日常に大きく侵入することのある政府のまとまった行動と,これとは別に存在する市民や企業の独自の行動領域,及びこれらの関係が見えてくる。市民や企業にとって,多くの場合,公共政策はあくまで行動するためのフレームワーク,制約にすぎず,市民や企業の多くは,その中で自律的にそれぞれの目的追及のために行動している。

しかしそうであっても,どちらの行動も,上記の①問題-②設計-③決定-④実施-⑤評価という共通の手法,基盤で分析することができる。

このような意味で,「公共政策」の分析手法は,社会を把握,分析するツールとして有用であると考えられる。具体的な適用は,今後の「「政府の政策」を読み,活用する」の中で考えていこう。

本書の分析手法の応用性

このように,本書が公共政策を分析する際の,①問題-②設計-③決定-④実施-⑤評価という枠組みは,単に公共政策だけではなく,市民の日常生活から,企業の経済戦略を含んで,一般的に適用することができる。

例えば,①問題-②設計-④実施-⑤評価の過程は,社会における市民,企業の一般的な行動過程そのものである。公共政策では,ここで除いた③決定が独自の大きな意味を持つが,これは公共政策が,民主的な政治システムに従って決定され,市民,企業の権利制限,義務付けが,法令によってなされなければならないからである。そのため,学者を動員した検討(権威付け)がなされること,政策案を国家の法体系に整合的に適合した法令とするために膨大な労力が割かれること,政治家が登場して様々な思惑から駆け引きがなされること等々は,公共政策特有の問題である。

また③決定-④実施過程は,市民にとっての,政治,社会批判(⑤評価)である。したがって,私たちが今の社会に対して持つ様々な不満は,たいてい,政府及びこれに関与する政治家,官僚,財界,マスコミ等々が展開する「公共政策」の,③決定,④実施,及びこれらの報道と不即不離である。市民の批判が,③④について,単なる直観的,情緒的な批判ではなく,①問題-②設計-③決定-④実施の過程を踏まえた批判になれば大きな意味があろう。

なお④実施-⑤評価の過程の過程は,弁護士にとっては,違法な行政行為とその是正を求める訴訟過程でもある。

①問題-②設計-③決定-④実施-⑤評価の過程の概要

以下,①ないし⑤の過程について,本書の内容を概観する。なお本書は,本文中でも,適宜そこまでの説明を要約しており,その意味でもとても使いやすい。

①問題

これについて本書が挙げるツールは,ⅰ問題への注目,ⅱフレーミング,ⅲ問題構造の分析である。

ⅰ「問題への注目」につき,問題が注目される要因としては,①重大事件の発生,②社会指標の変化,③専門家による分析,④裁判所での判決がある。問題への注目には様々なパターンがあり,同じ状態が続いていても世間の関心が上昇・下降する場合もある 。

ⅱ「フレーミング」につき,政策問題をどのような枠組みで捉えるかというフレーミングによって,問題への認識や対応は異なる。フレーミングで重要な役割を果たすのが言説である。またフレーミング自体も時代によって変化するものである(リフレーミング)。

ⅲ「問題構造の分析」につき,分析されるべき問題構造とは,問題を形成する要因とその要因間の関連性である。要因探索手法としては,階層化分析(ロジックツリー。MECEの原則による。)と,ブレインストーミングとKJ法等がある。問題要因が探索されると,次にコーザリティ(因果関係)分析が行われ,要因間の関連性が示される。これによって判明した要因間の関連性をもとに問題構造図が作成される。その際重要なのがフィードバック・ループの存在である。

②設計

これについて本書が挙げるツールは,ⅰ社会状況の分析,ⅱ問題解決の手段,ⅲ費用便益分析,ⅳ法案の設計である。

ⅰ「社会状況の分析」につき,政策問題に対して担当部局によって解決案(政策案)が設定されるが,まず社会情報の調査が行われる。担当部局は独自に調査する場合もあれば,外部のシンクタンクに調査を委託したり,既存の調査結果を利用したりする。次に将来状況についての予測が行われるが,資源不足から行われない場合も少なくない,予測の基本手法としては,投影的予測,理論的予測,類推的予測があるり,使い分けられる。

ⅱ「問題解決の手段」につき,政策を,目的を達成するために政府が社会をコントロールする活動と捉えた場合,政策手段の区分として,①直接供給・直接規制,②誘引,③情報提供の三つがある。これらが単独で用いられることは稀であり,ポリシーミックスと称されるように様々な手段が組み合わされて用いられる,この際重要なのは相乗効果の発揮である。

ⅲ「費用便益分析」,ⅳ「法案の設計」につき,費用便益分析では,政策が社会にもたらす費用と便益が算出され,意思決定のための指標が計算される。これらの分析をもとに政策手段が選択され,ポリシーミックスとして組み合わされると,その政策を実施するための法律案(法案)が設定される

③決定

決定過程については,ⅰ専門家・業界の意見聴取,ⅱ市民の意見聴取,ⅲ官邸との調整,ⅳ与党・政治家との調整,ⅴ国会審議が検討されており,従前,政治学や行政学で論じられてきた問題である。

④実施

これについて本書が挙げるツールは,ⅰ実施のデザイン,ⅱ組織間の連携と調整,ⅲ第一線職員である。

ⅰ「実施のデザイン」につき,政策を実施していくために,法律の執行に伴って内閣は政令を定め,担当省は省令を定める。また実施の現場となる地方自治体に対しては担当省から通達・通知として,具体的な命令・指示が行われる。さらに現場の担当職員に対しては実施のための具体的なマニュアルとして「実施要領」が作成される。

ⅱ「組織間の連携と調整」につき,政策の実施には多くの機関が関与する。機関の間の関係は,法律等によって規定されているものの,実際に政策を実施してく上では様々な調整が必要になる。調整は担当者の連絡調整会議を主体に行われるが,中央府省から地方自治体への出向者を通じて行われる場合もある。

ⅲ「第一線職員」につき,政策実施の現場で職務を遂行する第一線職員には,一定の裁量があり,職員がどのように裁量を行使するかによって実際に住民に提供される政策の内容が異なってくる。また第一線職員は実際の職務を遂行していく過程では,業務量の方さや相対立する政策目的といった困難を抱えているのである。

⑤評価

これについて本書が挙げるツールは,ⅰセオリー評価,ⅱプロセス評価,ⅲ業績測定,ⅳインパクト評価である。

ⅰ「セオリー評価」は,政策のデザインの妥当性,政策のロジックが適切であったか否かについての検討,評価である。ロジックを構成する要素は,投入,活動,産出,成果(中間・最終)であり,この経路図が「ロジックモデル」といわれる。デザインが評価されると,評価の焦点は政策に実施状況に移る。これがⅱ「プロセス評価」である。

ⅱ「プロセス評価」は,当初の計画をもとに適切に政策が実施されたか,投入された資源は質量ともに適切であったかが,検討される。その中心になるのが実施状況のモニタリングであり,各種データの収集から実施現場の訪問まで行われる。次に政策の活動内容と成果(結果)が計測される。

政策がもたらした結果について検討するⅲ「業績測定」では,「算出」と「成果」の二つを「業績」として計測していく。そこでは政策の業績に関する指標(業績指標)が「目標値(業績目標)」とともに設定され,それを基に測定される。さらに目標値の達成度合いをもとに政策を見直していく「目標による管理」も行われる。評価の焦点は,「政策が最終的に当初の目的を達成できたか否か」に移る。

ⅳ「インパクト評価」では政策の実施による問題の改善度合いの観点から評価が行われる。実験法や準実験法では「政策を実施した集団」「政策を実施しなかった集団」の比較が行われる。また,全国単位で実施される政策では集団の比較が困難なため,実施前後の比較で効果が測定評価される。各評価手法で得られた評価結果をもとに政策を改善していくことが重要になる。

法令の位置付け,その他

①問題-②設計-③決定-④実施-⑤評価の過程を見ていくと,②③④に法令が出てくるが,その内容について,大した分析がされていない。法令の柵瀬,適用が,公共政策の立案・実行に一過程であるという理解は視野を広げるが,そのうえで法令がどうあるべきなのかを考える必要がある。

法令は,自然言語に基づく「ルール」であるが,法は歴史的に形成されてきた「文化」であること,国全体の法体系が矛盾なく存在すべきであること,国民の権利を制限し義務を負わせることからその内容が緻密であること等の負荷があり,その起案は,行政にとって大きな負担となっている。「公共政策」の一環として,法令が容易に理解できるように改善されるべきであるが,実際は,「責任逃れ」もあって,ますます長大化,複雑化し,理解しがたいものとなっている。「公共政策学」も法令の改善に取り組んでいただきたい。

その他,本書は公共政策の改善をする手法として,「inの知識」と「ofの知識」をあげる 。「inの知識」とは,「政策決定に利用される知識」であり,政策を分析評価する手法をに係わる。「ofの知識」とは「政策のプロセス」に関する知識であり,政策が決定,実施されるメカニズムに係わるとする。ただあまりピンとこない。

あと公共政策を上記の過程に分け分析をすることは優れた手法だと思うが,それぞれでする分析の内容が,論理的で科学的,あるいはデータを踏まえた誤りのない統計分析であることが必要だ。

一応本書の紹介はここまでとし,詳細目次を掲記しておく。なお,次に,この分野の最大の問題である「社会保障」についてだけは,考えておきたい。そのために次に上記の「教養としての社会保障」を紹介したい。

 

社会と世界

もう少し整理しよう

経済指標について,先行する記事として「「経済」は分からないー経済指標にアクセスするー」,「経済指標を理解する」を掲載したが,これらはいわば食材の野菜を買ってきて並べたただけで,まだ調理する段階には至っていない(ましてや食事する段階には遠い。)。もう少し整理してみよう。

問題は,国民経済計算(SNA)及びこれに係わる経済指標の基礎・概要を理解すること,及びこれを一応の前提にして展開されるマクロ経済学の入口に立つことである。

国民経済計算(SNA)の基礎・概要

「国民経済計算は「四半期別GDP速報」(QE)と「国民経済計算年次推計」の2つからなっている。「四半期別GDP速報」は速報性を重視し,GDPをはじめとする支出側系列等が,年に8回四半期別に作成・公表されている。「国民経済計算年次推計」は,生産・分配・支出・資本蓄積といったフロー面や,資産・負債といったストック面も含めて,年に1回作成・公表されている」というのが,大まかな国の説明だ。

これについては,各省庁のWebサイトを追う前に,SNAを説明した概説書に目を通した方がよい。

「新版NLASマクロ経済学」(著者:斎藤誠他)の「第Ⅰ部 マクロ経済の計測」の「第2章 国民経済計算の考え方・使い方」,「第3章 資金循環表と国際収支統計の作り方・見方」は,基本的なことから書かれていて参考になる。産業連関表,国際収支統計,資金循環統計を含めてGDP統計を位置づけており,これだけでもマクロ経済学の教科書の記載の曖昧さ,不愉快さが半減する。

また「経済指標を理解する」で,紹介した「経済指標を見るための基礎知識」(以下「基礎知識」という。これは,「08SNA」が日本の国民経済計算(JSNA)に盛り込まれる以前の時点で書かれたものではあるが,「08SNA」にも触れられているので,さほど問題はないと思う。)は,細かいところまで書かれていて,とても参考になる。特にQE(四半期別GDP速報)と確報(年次推計)の実務的な関係がよく理解できる(なお従来,確報,確々報と呼んでいたものを,それぞれ第一次年次推計,第二次年次推計とし,新たに第三次年次推計を加えたとのことである(「国民経済計算(GDP統計)に関するQ&A」14頁))。)

「新版NLASマクロ経済学」からピックアップ

「マクロ経済の物の循環に関する基本的な情報となる産業連関表(国民経済計算の作成は,産業連関表と呼ばれる一国経済の1年間の生産構造に関する情報をまとめた表が出発点となる。)は,総務省統計局を中心として,11府省庁か作成に関わっている。国内の資金循環については,日本銀行か作成している資金循環表が基本的な情報となる。また,日本と諸外国との間における「物と資金の循環」については,財務省と日本銀行が共同して作成している「国際収支統計」によって把握することができる。」。

産業連関表

これらの統計の関係について,総務省の産業連関表の頁にある「2 国民経済計算体系における産業連関表」には,「国民経済計算体系(SNA)とは,一国の経済の生産,消費,投資というフロー面の実態や,資産,負債というストックの実態を,実物面及び金融面から体系的,統一的に記録するための包括的かつ詳細な仕組みを提示したものである。すなわち,経済活動を「取引」,取引への参加者を「取引主体」と規定し,それぞれ商品別,目的別又は経済活動別,制度部門別等の観点から分類し,その概念を統一することにより,それまで独立的に作成されていた①産業連関表,②国民所得統計,③資金循環表,④国際収支表,⑤国民貸借対照表の五つの勘定表を相互に関連付け,その体系化を図ろうとしたものである。行列の形を用いて第4表のように表されている。」とある。

また「産業連関表の構造と見方」の第2図,第5図で,「粗付加価値合計=最終需要額合計-輸入額合計」という,二面等価の関係がわかる。これは,国民経済計算の国内総生産(GDP)(生産側)と,国内総生産(支出側)に「ほぼ」対応するとされる。「ほぼ」の理由は,上記に書かれている。

資金循環統計

資金循環統計について,日銀のWebサイトのQ&Aで,「資金循環統計と国民経済計算,あるいは国際収支統計との関係を教えてください」という問いに対し,(少し引用が長くなるが)「国民経済計算と資金循環統計…国民経済計算は,一国の経済活動を,(1)付加価値が生産される過程,(2)これが経済主体に分配・消費される過程,(3)消費されなかった部分が貯蓄として資本蓄積に回される過程に分解し,それぞれのフローの動きを,生産勘定,所得支出勘定,資本調達勘定という形で記録します。また,(4)期末時点の実物資産と金融資産のストックを期末貸借対照表として計上するとともに,(5)時価変動などによるストックの再評価や,その他の資産量変動を記録する調整勘定も設けています。資金循環統計の金融取引表,金融資産・負債残高表,調整表は,それぞれ国民経済計算における資本調達勘定のうちの金融勘定,期末貸借対照表,調整勘定にほぼ対応します。また,両統計の指標のうち,国民経済計算の資本調達勘定における「純貸出(+)/純借入(−)」が,資金循環統計の金融取引表の「資金過不足」に概念上一致するという関係にあります。このように,資金循環統計は,概念上,一国全体の経済活動を表すマクロ統計の体系(国民経済計算体系)の一部を構成しており,また,これらの計数作成のための基礎データとしても活用されています。なお,国民経済計算と資金循環統計では,取引項目,評価方法,勘定体系について若干の相違があります。」,「国際収支統計と資金循環統計…国際収支統計は,一定期間における一国のあらゆる対外経済取引を体系的に記録した統計です。概念的には,資金循環統計と同じく,一国全体の経済活動を表すマクロ統計の体系(国民経済計算体系)の一部を構成し,国際標準(国際収支マニュアル第6版)に沿って作成されています。資金循環統計では,海外部門を「国際収支統計における非居住者」と定義しています。このため,海外部門の資金過不足を「国際収支統計」における「経常収支」と「資本移転等収支」の合計額に,また,海外部門の金融資産・負債差額を,同じく「対外資産負債残高統計」における「純資産残高」から,資金循環統計における「うち金・SDR等」中の貨幣用金などを調整した金額に,それぞれ一致させています(国際収支統計が「わが国」の対外債権債務という視点から見るのに対して,資金循環統計では,「海外部門」の対内債権債務という視点から捉えることから,いずれかの資産(負債)は他方の負債(資産)となります)。この調整のうち,「うち金・SDR等」中の貨幣用金を控除するのは,同項目が国内の中央銀行,中央政府の資産として計上される一方,対応する負債が存在しないためです。なお,国際収支統計と資金循環統計の間には,部門分類,取引項目,勘定体系に若干の相違があります。上記のほかにも,資金循環統計では,国際収支統計や対外資産負債残高統計を基礎データとして利用しています。」と説明されている。

国際収支統計

国際収支統計については,日銀の「国際収支統計(IMF国際収支マニュアル第6版ベース)」の解説」に記載されている。国際収支統計と国民経済計算の関係については,「国民経済計算推計手法解説書」の「第6章 海外勘定の推計」に記載があるが,特段の問題はないと思う。ただここは,「貿易赤字とは何か」という「古典的な問題」がからんでいるところで,みんな熱くなる。国際収支の構成は下記のとおりだが,問題はこれが会計原則に従って記載されているということだ。

  • 経常収支
    • 貿易サービス収支
      • 貿易収支(財輸出-財輸入)
      • サービス収支
    • 第一次所得収支
    • 第二次所得収支(経常移転収支)
  • 資本移転等収支
  • 金融収支
    • 直接投資
    • 証券投資
    • 金融派生商品
    • その他投資
    • 外貨準備

「基礎知識」を読む

大体以上のことを頭に入れて「基礎知識」に取り組むと,ずいぶん,見通しがよくなる。四半期別GDP速報(QE)と年次推計(旧称は,確報,確々報)が読めることが目標だ。

内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」の「統計データ」に,「四半期別GDP速報」(QE)と「国民経済計算年次推計」及び「その他の統計」が掲載されている。

QE

「四半期別GDP速報」の最新年(現時点では,平成29年(2017年))をクリックし,一番上右の「統計表」をクリックすると,「四半期」や「年度・暦年」の「国内総生産(「支出側)」を把握することができる。これを見ながら「基礎知識」の第4章までは読み進めることができる。

年次推計とSNA

次は年次推計だ。

国民経済計算(SNA)は,国連等が規定する標準的な表は,一国経済全体について「生産勘定」,「所得支出勘定」,「蓄積勘定」,「貸借対照表」に分けて作成され,同じ勘定を制度部門別(非金融法人企業,金融機関,一般政府,家計,対家計民間非営利団体)にも作成する。そしてこれを一覧できる統合経済勘定表も作成される。またこれとは別に「海外勘定」も作成される。

年次推計(平成23年基準)はJSNAであり,基本的に08SNAに準拠しているが,細かい点で異なっている。気にし始めるときりがないから,とにかく「年次推計」に取り組むしかない。

上記の「統計データ」の「国民経済計算年次推計」をクリックし,現時点で最新の「平成23年基準(2008SNA)-1994年から掲載」,「2016(平成28)年度 国民経済計算年次推計(2011年基準・2008SNA)」をクリックすると,「フロー編」(Ⅰ.統合勘定,Ⅱ.制度部門別所得支出勘定,Ⅲ.制度部門別資本勘定・金融勘定,Ⅳ.主要系列表,Ⅴ.付表)及び「ストック編」(Ⅰ.統合勘定,Ⅱ.制度部門別勘定,Ⅲ.付表,Ⅳ.参考表)から構成される膨大な情報群が現れる。これが現時点で最新の「年次推計」だ。

これに従って「基本知識」を参照に読み進めていけばいいのだろうが,とりあえず何をしていいかよくわからない。そこで「国富」とされる「期末貸借対照表勘定」でも見てみようかと思い,データを抜き出してみた。平成28暦年末の正味資産は約3351兆円となっているが(国の貸借対照表),国富調査は平成45年にやっただけで,あとは推計ということのようだから,どの程度誤差があるものだか,どうだか。

こういう作業をしていくと,だんだん,SNAお宅になりそうだ。。

三面等価の原則とISバランス,政府債務残高

ここまでの知識を利用して,ISバランス,政府債務残高について調べてみよう。

三面等価の原則

まず,三面等価の原則についてまとめておこう。

三面等価とは,GDP「総生産」を,「所得(どのように使われているか)」「支出(誰によって支払われているか)」という別な面・角度から見たものといわれる。

①国内総生産(GDP)=Y産出

②国内総所得(GDI)=C消費十S貯蓄十T税

③国内総支出(GDE)=C消費+1投資+G政府支出+(EX輸出-IM輸人)

②の貯蓄とは所得から税(社会保険料 などを 含む),消費支出を差し引いた残り

とされる。

③は,総供給のY産出+IM輸人と,総需要のC消費+1投資+G政府支出+EX輸出が,均衡していると考えればわかりやすい。

一方,SNA等では,

④分配面のGDP=雇用者所得+営業余剰+固定資本減耗+間接税-補助金

⑤支出面のGDP=民間最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成(民間住宅+民間企業設備+公的固定資本形成)+在庫変動(民間+公的)+財貨・サービスの純輸出(輸出-輸入)

③と⑤の関係はわかるが,②は④というクッションを置き,所得から消費でも税でもない部分を,貯蓄としたもののようだ。定義と実態が,交錯している気がする。冷静に見極めればいいのだが,ここではこれを前提に先に進もう。

ISバランス(貯蓄・投資バランス)

三面等価の原則から,ISバランス(貯蓄・投資バランス)式が導かれる。

C+S+T=C+I+G+(EX-IM)

S=I+(G-T)+(EX-IM)となる。

この式は同時に2つのことを意味する(東学『 資料政・経2015』305頁。 ただし,「中高の教科書でわかる経済学マクロ篇」からの孫引きである。同書には,1つは,貯蓄S(カネ)が,どのように世の中に回つたか(誰が借りたか),もう一つはモノ・サービス(実物)を誰が購入したか(誰が消費したか)です。)とある。

(1)貸した総額=借りた総額

(2)総生産の残り=購入した主体

「基本知識」には,「確報(年次推計)で得られるデータを使った分析として,まず,ISバランス,資金過不足について説明します。各制度部門は,投資を行います。そのための資金となるのが貯蓄です。しかし,通常は投資と貯蓄は一致せず,資金が不足の場合は借入等を行い,資金に余裕があれば預金・貸出などを行います。この貯蓄(S: Saving)と投資(I: Investment)の差がISバランスです。各部門のISバランスの中長期的動向を見たものが長期的なISバランスです。1980年度まで遡って見るため,旧基準のデータを使用しています。高度経済成長時代は,家計は貯蓄がプラスで,(非金融法人)企業は貯蓄がマイナスでした。企業が投資を行うための資金は家計の貯蓄で賄われていました。しかし,成長の鈍化などにより,企業の投資意欲は減退し,最近は企業も貯蓄過剰となっています。家計の側は,貯蓄の過剰幅は,かつての半分程度になっています。しかし,企業と家計を合わせれば,貯蓄過剰の水準は高いです。一方,海外は,ほとんど一貫してISバランスはマイナスです(我が国は必要な投資を海外からの貯蓄で賄っているわけではないのがわかります)。ですが,過去に比べて大きくマイナス幅が拡大しているわけではありません。結局,政府が,高齢化などによる財政赤字の拡大で,企業と家計の貯蓄を吸収している形に変わっています。データは,推計のフロー編付表18「制度部門別の純貸出(+)/純借入(-)」にまとめて掲載されています。年度と暦年の両方のデータがあります。最初が,投資など実物取引からの推計,2番目が預金や貸出など金融取引からの推計です。この2つは概念的には一致するはずですが,推計上使用するデータ等が異なるため,計数としては一致しません。このため,「統計上の不突合」という項目が最初の実物取引からの推計の方に設けられています。」と説明されてあり,ISバランスの意味あいがよくわかる。

上記の付表から,2009年以降のISバランスを作成してみた。

政府債務残高

年次推計から,政府債務残高も把握できる。「基本知識」に「ストック編の「制度部門別勘定」中の一般政府の「期末貸借対照表勘定」(政府のバランスシートです)に,期末資産残高(土地や固定資産などの非金融資産を含みます),(金融)負債,この二つの差である正味資産残高が掲載されています。さらに,年次推計のストック編の付表3「一般政府の部門別資産・負債残高」には,一般政府を,中央政府,地方政府,社会保障基金に分けた数値が掲載されています。分析の目的に応じて,社会保障基金を除いたり,土地や固定資産などの非金融資産を除いたりする場合も見られますので,そのためにも内訳は重要です。一般政府の負債残高は,一般政府の負債残高の推移(名目GDP比)をグラフにしたものです。「グロス負債」と「ネット負債」があります。グロス負債は,負債額そのものです。一方,ネット負債は,グロスの負債から金融資産残高を除いたものです。いずれも,「政府の借金残高」です。近年,財政赤字の拡大により,いずれも増加しています。」とある。

経済指標のアンチョコ

このようにQEとJSNAを読み解くのが王道だが,森の中で道を失いそうだ。そこでネットで公開されている統計のアンチョコも見てみよう。

・「新版NLASマクロ経済学」に記載されているデータが更新されている。

・「富山統計ワールド」の「統計指標のかんどころ」は,わかりやすい。

統計ダッシュボード

・日経新聞経済指標ダッシュボード

・「日本経済入門」(著者:野口悠紀雄)の「経済データ 様々な経済データについてのリンク集

・(参考)政府の提供している統計の入口が「e-Stat」であり,主たる担当官庁が,「総務省統計局」である。

マクロ経済学の入口に立つ

以上のような,経済指標や統計を見慣れると,マクロ経済についても,あまり頓珍漢なことは,いわなくなるだろう。

次は,「新版NLASマクロ経済学」をフォローしていけばいいのだろうが,これはこれでいささか大部で大変そうなので,とりあえず「マクロ経済学の核心」(著者:飯田泰之)が読み切れれば良しとしよう。

それとは別に,上でも触れた書きぶりがいささか挑発的な「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」,「中高の教科書でわかる経済学 マクロ編」(著者:菅原晃)について,冷静に,いい過ぎのところ,根拠不足のところが読み取れればいいなあと思っている。

これについては追ってということにしよう。

次は,社会の中で「法を問題解決と創造に生かす」,「アイデアをカタチに」の領域に進もう。

最後に「基礎知識」の詳細目次を紹介しておく。

組織の問題解決

 アイデアをカタチにする

「政府の政策」を読み、活用するという「アイデアをカタチに」しようと思っています。これは今後、固定ページで展開していきますが、その最初の投稿です。最新の内容は、固定ページで確認してください。

「政府の政策」を読み、活用する

政府は、必要と判断する多くの「政策」を実行するために、国民・企業から資金(税金)を吸い上げ、罰則を伴う「ルール」を設定して、モノ、カネ、ヒトを投入する行政活動を行っている。国民・企業は、生活・存続のための財の取得活動にその労力の大半を費やすが、政府は国民・企業の資金で政策実行のために自由な活動を行い、国民・企業への規制、影響はますます強まっているから、立法府、裁判所はその活動を合理的なものに事前・事後に規制し、国民・企業はその活動を把握、監視してこれをコントロールすると共に、自分たちのための政策だからこれを有効に活用すべきだろう。

ところで現在の政府の政策・活動は、社会の多様化、グローバル化、科学技術の進展、コンピュータやインターネットの常態化等によってきわめて複雑化・多様化しているが、政府はその政策・活動の多くをインターネットで公開するという方針が推進されているし、その内容も、各省庁ともWebサイトの作成に多くのカネ、ヒトを投入し、競って網羅化、精緻化し、かつ各省庁で横断化されている(これらによってますます細かい政策が生み出される)ように見受けられ、一昔前のお粗末なWebサイトとは全く異なっている。ただ国民・企業は、まだその利用に十分習熟しておらず、ウオッチし続ける活動にも慣れていない。特に通常、インターネットでの情報収集は、検索して必要な情報を得て終わりということが大部分だから、膨大な政府の政策情報の全体像を把握し、これを整理し、必要な情報を抜き出して自分に役立つように有効活用することは、直ちにできるわけではないだろう。特に政府の政策は「ルール」(法律、規則等の法令)に基づいて実施されているから、その解読も必要だ。

そこで「法令」を扱うことを業としIT・AIが大好きな弁護士である私として、「政府の政策を読み、活用する」という「アイデアをカタチにする」ために何ができるか、少し考えてみたい。まず、政府のWebサイトの全体像を把握してみよう。

そのうえで、今後、これから必要な情報を整理して抜き出し、国民・企業が有効活用できる方法を模索してみよう。

以後は、固定ページに。