人の心と行動

私のゲーム体験

ゲームは人を映し出す。小さい子は,自分が後退しなければならないルールが許せない。おとなは,主観的な筋立てや考えるふりをするだけで,強引に手順を進めたり,そもそもゲームの世界に入り込むのを嫌って敬遠したりする。

私は小さい頃は,花札,トランプ,将棋等が好きだったし,碁も少しやったが考えるふりをして強引に進めるだけでうまくならず,いつしかゲームの世界に入り込むのを嫌い敬遠するようになった。

大学生になった頃,インベーダーゲームが流行った記憶だが,あまり好きではなかった。ルービックキューブにも手を出さなかった。その後,私の子供らはそこそこゲーム好きになってファミコン等で遊んでいたが,私はお酒を飲みながら子供らが遊ぶのを見る方が楽しかった。

ということでずいぶんと貧しいゲーム体験だ。

ゲームとのコンタクト

そういう私がなぜ「ゲーム」とコンタクトするのか。対象は,「ゲーム理論」ではなくて,間違いなく「ゲーム」だ。

それは最近,ゲームの制作を受託している会社数社の持株会社の監査役になったことから,これらの会社がどういう業務をしているのか,よく理解する必要がでてきたからだ。まず会社のスタッフから,口頭ベースで簡単な説明を受けた。最近のスマホゲームにも少し触ってみた。それでこれからは,自学自習だ。

「ゲームの今」(Amazon)という本の「はじめに」に,次のような指摘がある。

「こと「ゲームについて語る」となると,明らかにゲームの現状を把握していない発言や,一方的(ないし極めて主観的)な見地からの発言が,急激に増大する傾向がある。興味深いことに,普段は冷静で,畑違いの分野について見解を示すにあたっては下調べを怠らない専門家たちが,ことゲームについて語りだした途端,十年以上前の状況を前提とした分析をしたり,実体がどこにもないブームについてその社会的背景を推測したりと,いわば「勇み足」を連発してしまう…個人的には,これはゲームが持つ,本質的な強さを示しているように思う。ゲームには,識者をして「たかがゲーム」と感じさせる,驚異的な間口の広さがあるのだ。」。

「たかがゲーム」と感じさせることが,「驚異的な間口の広さ」を示しているというこの本の言い方は,すぐには理解できないかなり「ひねくれた」分析だ。

「たかがゲーム」という切り口は,明らかに「ゲーム」を,つまらないものとみている。ひとつはゲームが,単なる「遊び」だということ,もうひとつは,ゲームを構成する要素は大したものではないという「思い込み」からなっているのだろう。

しかし,後者は,全くの誤解である。今のゲームの制作,流通に必要なものをざっと挙げても,企画,シナリオ,ゲームデザイン,プログラミング,ゲームAI,サウンド,グラフィックス,ビジュアルデザイン,ネットワーク,法務・著作権,国際対応,マーケッティング,広告・宣伝,プロジェクトマネージメント等々,膨大な広がりがある。コンテンツ・ビジネスの中でも,最も複雑な仕組みの中で初めて成立する成果だろうが,ゲームを遊ばない世代からは,もっともつまらないものとみられている。前者は,「思想」の問題だ。このような中で「たかがゲーム」と言えることが,ゲームの「驚異的な間口の広さ」,毀誉褒貶なんでも飲み込んでしまうゲームの性格を示していることになる。

現実との架橋

これではすれ違いのまま終わるので,取り急ぎ「ゲーム」と現実を架橋しよう。

1点目は,ゲーム制作の中心に,プログラミング,ゲームAI,ネットワークがあるということだ。ゲームでの試み,習熟が,現実での「軽快な動きを切り開くだろう。

2点目は,ゲームがルールによって成立しており,ルールと世界の関係をシミュレーション出来るということだ。これによってはじめて法が科学的に検証できる土俵に乗るだろう。

3点目は,プロジェクトマネージメントである。ゲーム制作に関与する人員は次第に膨大となり,しかも仕事の集中と弛緩を管理するのは,基本的にはクリエーター自身だから,労働法規の枠組みの中で,プロジェクトマネージメントを実行するのは至難の業である。まさにあらゆる分野のプロジェクトマネージメントの試金石になるだろう。

このように指摘することで,はじめてゲームと関わりを持てなかった世代の人や,敢えて関わらなかった人にも,その意味合いが見えてくるだろう。

そしておそらく実際にゲームにのめり込む体験を経てはじめて,ゲームと現実が深くつながるのだろうが,私にはもう無理かな。

取り急ぎ調べることと今後の課題

まずゲームの歴史と現在の状況を把握する必要がある。「ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード」(著者:徳岡 正肇)(Amazon)には,ゲームの歴史を踏まえた現状の詳細な記述がある。少し古い歴史はその前版である「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」( デジタルゲームの教科書制作委員会 )(Amazon)にある。ただゲームの世界は変化が早いから,最新の状況は,丹念に業界情報を追う必要があるだろう。未読だが「All in One ゲーム業界」(廣瀬豪)(Amazon)は,刊行が最近で,新しい情報に基づいているようだ。

ゲーム開発を引っ張ってきた一人の「遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継」(著者:株式会社モバイル&ゲームスタジオ)(Amazon)も少し古いが参考になるだろう。Kindle無料本の「ゲーム開発者の地図: 20年の個人開発から学んだこと」(著者:SmokingWOLF)(Amazon)をダウンロードしてみたが,何が書いてあるのかさっぱりわからないのでやめた。

その他,もう少し理解が進んだら,各論の本も読み進めよう。反対にゲームをコンテンツの一種として検討する「図解入門業界研究 最新コンテンツ業界の動向とカラクリがよくわかる本」(著者:中野明)(Amazon)も参考になるだろう。

上述したプログラミング,ゲームAI,ネットワークについては,「人工知能の作り方 ―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか」(著者:三宅 陽一郎)(Amazon),「人狼知能で学ぶAIプログラミング 欺瞞・推理・会話で不完全情報ゲームを戦う人工知能の作り方」(著者:狩野 芳伸他)(Amazon),「ゲームを作りながら楽しく学べるPythonプログラミング」(著者:田中 賢一郎)(Amazon),「ゲームを作りながら楽しく学べるHTML5+CSS+JavaScriptプログラミング[改訂版]」(著者:田中 賢一郎)(Amazon)等が参考になる。

ゲームとルールについては,「組み立て×分解!ゲームデザイン―ゲームが変わる「ルール」のパワー」(著者:渡辺訓章)(Amazon)を材料に,ゲーム理論と対比して検討したいと思っている。

ゲームの世界は広大だが,人生は短い。

 

 

組織の問題解決

「地方創生大全」(著者:木下 斉)を読む

地方活性化を真正面から論じている

今,人口が減少しつつある状況の中で,地方再生,地方創生が大きな課題になっていると言われるが,多分解決すべき問題は,都市だろうと,企業だろうと,国全体の経済であろうと,同じであろう。「地方」を「特殊」なものとして上から目線で論じること自体,無意味である。

「地方創生大全」(著者:木下 斉)(Amazon)は,長年,地方活性化のために活動してきた著者が,地方活性化のために何が必要で,何が不要かあるいは障害かを,ネタの選び方,モノの使い方,ヒトのとらえ方,カネの流れの見方,組織の活かし方という観点から,真正面から論じた本である。

ただ中心となる主張は極めて単純で,経済的に回る事業を,「すぐに」「自分で」始め,撤退も頭において,試行錯誤を繰り返す。実践と失敗から「本当の知恵」を生み出そう。観光客数ではなく観光消費を重視する。役人の立てる計画や補助金は「害悪」だ。

そして,マシンガンのごとく,「ゆるキャラ,特産品,地域ブランド,プレミアム商品券,ビジネスプランコンペ,道の駅,第3セクター,禁止だらけの公園,モノを活かせない「常識的」な人, 地方消滅論,人口減少論,,新幹線,高齢者移住,補助金,タテマエ計画, ふるさと納税, コンサルタント,合意形成,好き嫌い,伝言ゲーム, 計画行政,アイデア合戦」等々を撃ちまくる。

少し視点を抽象化し事前のマクロ的分析を加えれば,素晴らしい本になる

問題解決と創造

上述したように,地方活性化をやり遂げることの出来る力は,都市や企業,国全体の経済の問題にも通用するであろう。もっと言うと,個人の生活・仕事・文化の「問題解決と創造」でも同じである。いや地方活性化こそ,すべての試金石であるといってもいいであろう。

しかし本書は,地方活性化の世界の中であれこれ格闘するあまり,地方政策に関わる行政に対する「批判」だらけとなってしまい,その世界がいささか息苦しくなっている。行政の現実について,把握できている人にはいいが,行政に期待している人を遠ざけてしまうかもしれない。少し視点を抽象化して,個人,企業,政府すべての「問題解決と創造」の方法から始め,主たる論点を「地方政策」に収斂すれば,素晴らしい実践本になると思う。

「地元経済を創りなおす」の方法を取り入れる

もう一点,著者は,ネタの選び方について,行政,コンサルタント,合意,古い発想等々を厳しく批判し,自分の頭で考えろということであるのだが,何をターゲットにするか,その下調べはしたほうがいいだろう。

これについては「地元経済を創りなおす-分析・診断・対策」(著者:枝廣 淳子)(Amazon)が,地域経済からお金の漏れをふさぐという観点から紹介する「産業連関表を用いる方法、地域経済分析システム(RESAS) を用いる方法、英国トットネスで行った「地元経済の青写真」調査、LM3という地域内乗数効果を見る方法、そして、より手軽な方法として、買い物調査や調達調査など」は下調べとして参考になる(ただし,同書の「漏れ穴をふさぐ」という方法論は一人歩きすると危険だと思うし,行政と民間を区別する視点に乏しいこと,また「成功事例」の紹介が安易であること等あって,なお検討の余地がある。)。マクロ経済の視点も,そこで自足しない限り,役に立つ。

地方創生への批判

今進められている「地方創生」には批判が多い。この問題は,中央政府と地方政府の「権力構造」,過去の地方政策の失敗等々も絡み,なかなか複雑な問題だ。

「地域再生の失敗学」(著者:飯田泰之他)(Amazon),「地方創生の正体-なぜ地域政策は失敗するのか」(著者:山下祐介,金井利之)(Amazon)等の学者本も読み応えがあるが,「地方創生大全」+「地元経済を創りなおす」の方法で問題を理解して読み進めると,これらの著者らが何をわかっており,何がわかっていないかが,浮かび上がってくるようだ。

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本の森

一ヶ月ぶり

ここしばらくの間,時間を取られる仕事が続き,記事を作成できなかった。今見ると前回記事を投稿してから1か月近く間が空いている。その間,涼しい夏から始まったものの,猛暑,台風,暴風雨が続き,やはり地球湯温暖化を前提として対処していかなくてはならないのかなというのが多くの人の実感だろう。

前回の投稿後も,次の記事の作成に向けてあれやこれや本を読んだり,購入をして準備はしていたから,全く手付かずだったのは,半月ちょっとだろうか(それでも購入本だけは増えていくが。)。

どんなことをやりかけていたか,取り急ぎ,思い出さないと半月もたつと忘れてしまう。

「問題解決と創造の方法と技術」の基本書の追加

まず「問題解決と創造の方法と技術」の基本4書として,「問題解決入門」,「創造はシステムである」,「アイデア大全」,「問題解決大全」をあげたが,「コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法」(著者:名和高司)(Amazon)は題名があまりにもぴったりなので,ビジネス編としてを追加しようと思っている。

そして問題解決のためのインプット-プロセス-アウトプット(結果)という展開において,プロセスには介入できないということが前提だが,プロセスには物的なものだけではなく,人間の相互作用も含まれる。人間の相互作用を分析するのが「ゲーム理論」であるから,「問題解決と創造の方法と技術」としてTRIZだけでなく,「ゲーム理論」も組みこむべきであろう。「ゲーム理論」の本もたくさんあるが,ここでは岡田章さんの「ゲーム理論・入門 新版 人間社会の理解のために」(Amazon),「ゲーム理論ワークブック」(Amazon),「ゲーム理論 新版」(Amazon)を読み込み,基本書に追加していきたいと思っている。

社会的課題を解決する

「コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法」には,社会的課題の解決として「ボストン コンサルティング グループ出身の社会思想家としては,アンドリュー・ウィンストン氏の活躍が注目される。かれは最新書『ビッグ・ピボット』で環境問題,資源問題,企業責任(村本注:簡単に言えば,暑い,足りない,隠せないということだ。)という三つの社会課題を解くための包括的なアプローチを提言している」と紹介されている「ビッグ・ピボット」(著者:アンドリュー・S・ウィンストン)(Amazon),あるいは,一度取り上げたことのあるマイケル.E.ポーターの「経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略」(本の森)等も取りあげられている。両書とも私好みだ。今までは,企業が社会的課題の解決に取り組むと言っても嘘っぽいだけだったが,確かに,「暑い,足りない,隠せない」時代の中でそんな事は言っていられなくなったのだろう。

社会的課題としての「地方再生」

我が国における社会的課題として解決が望まれる大きな問題のひとつは「地方再生」である。そのため,国レベルで,地域再生法や,まち・ひと・しごと創生法等が立法され,多額の交付金が流れているが,その現状にも批判も多い。

「地方再生」のためのプレーヤーは,「地方政府」「中央政府」「地方企業」「住民」「中央企業」というところだろうが,「中央政府」「中央企業」が,国全体の経済について将来像を切り開けず迷走する中で,「地方政府」「地方企業」「住民」がする「地方再生」がうまくいかないと言って「監督」できるというのは,思い違いである。国全体の経済については現にうまく行っている国があるのだから,我が国の「中央企業」と「中央政府」の振る舞い方がまずいのだというこはよく分かるが(ただ,簡単なことだと言っているわけではない。),人口減少,経済の大きな変容の中で,「地方再生」をうまくいかせるのは至難の業だ。それをふまえてこれからどうすべきかが問題である。大都市の「町内会」も含めて地方だとすれば,どこにも課題がある。

ここでも初回すべき本が何冊かあるか,これは独立した問題だから別途紹介しよう。

価値創造と自立

個人が抱える生活・仕事・文化の「問題解決と創造」,さらには社会的課題の解決を行うためには,自戒を込めて言うのだが口先ばっかりではなく,「問題解決と創造の方法と技術」を身に付けてこれを駆使し,価値創造を実践し,それによって自立することが重要だとつくづく思う。

もちろん人は相互に影響作用し,相互に依存しているが,いつも何かに頼りっぱなしで自立できないのでは,少し困難な問題に直面すると,問題の解決ができなくなってしまう。中央の,政府も,企業も,立派なことを言うけれども,実態は,過去のストックや権力,権威に依存し,自立できておらず,困難な問題に直面すると,解決できないことが多い。

価値創造を行い,それによって自立するためには,昔取った杵柄は横に置き,新しいことを身に付け,発信していくことが必要不可欠であろう。そのための道筋をどうつけるか。

自立への道筋

思い返せば,私もずいぶん長い間弁護士の仕事をしてきたが,あまり仕事疲れしてなくて,仕事に限らず新しいことには興味を持つ方だ。

これについては,以下の4冊の本で流れをつけることができそうだ。

最近,「LIFE SHIFT」(著者:リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット)(Amazon)という本があり,人生100年だから,学び直しとスキルの再習得が重要だということが強調される。そこで「マインドセット」(著者:キャロル・S・ドゥエック)(Amazon)が重要で,「硬直マインドセット」ではだめで,「しなやかマインドセット」が必要だということになる。

次に「しなやかマインドセット」に基づいてどのように学び直しとスキルの再習得をすればいいかについて「Learn Better」(著者:アーリック・ボーザー)(Amazon)が科学的に説明している。これは学習本としてなかなかの良書だ,要約箇所をあげよう。

「①価値を見いだす:学びたいと思わなければ学ぶことはできない。専門知識を習得するには,そのスキルや知識に価値があるとみなさなければならない。さらに,意味づけを行わなければならない。学習とはすなわち対象の意味を知ることである。②目標を設定する:知識を習得する初期の段階においては,集中が重要だ。何を学びたいのかを厳密に見きわめて,目的と目標を設定しなければならない。③能力を伸ばす:練習にも,他人と差がつく力をつけられるようなものがある。学習のこの段階では,スキルを磨き,パフォーマンスを向上させるためにそのことに特化した手段を講じる必要がある。④発展させる:この段階では,基本から踏み出して,知識を応用したい。スキルと知識に肉付けして,より意味のある形の理解を形成したい。⑤関係づける:すべてがどう噛み合うかがわかるフェーズである。私たちは結局,個別の事実や手順だけを知りたいのではなく,その事実や手順が他の事実や手順とどう関わり合うかを知りたいのだ。⑥再考する:学習には間違いや過信がつきものだから,自分の知識を見直し,自分の理解を振り返って,自分の学習したことから学ぶ必要がある。」。

学び直しとスキルの再習得について,アウトプットという観点から細かい技法を説明したのが「学びを結果に変えるアウトプット大全」(著者:樺沢紫苑)(Amazon)である。これは参考程度でいいだろうが,著者が本の中に書いてあるとおりの成果を上げているのだとすれば,参考にするに足る。

ここに上げた本はみんなベストセラーのようで,誰も学び直しとスキルの再習得の必要性を痛感しているということだろう。

隠せない時代

もう一つ関心事を上げておこう。

今は,戦後続いてきた理性尊重の時代から,米日の政府トップがそうであるような感情の時代だ(「経済の不都合な真実」(著者:ルディー和子)(Amazon)。それはそういうものとして捉え,対処するしかない。そういう中で,心の闇と憎悪がネット上で荒れ狂い,情報は隠せず(「炎上と口コミの経済学」(著者:山口真一)(Amazon),検索行為というビッグデータを通じて人の行動が明らかになりつつある(「誰もが嘘をついている」(著者:セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ)(Amazon)。これも同時代を知るという意味では,とても重要だし興味深い。

事程左様に新しい問題が押しかけつつあるので,もう一度態勢を整理しよう。