138億年とは
138億年とは,138億年前に宇宙が誕生したといわれるその年数である。もっともテレビでも放映されたクリストファー・ロイドの「137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史」もあるし,140億年前ともいわれるが,1,2億年くらい大した問題ではない(のかなあ?)。
惑星科学者である松井孝典さんの「138億年の人生論」(Amazonにリンク)というKindle本を見つけたので,読めばきっと雄大な気持ちになるだろうと思って早速購入したのだが,その結果は!
「138億年の人生論」の中で松井さんは,宇宙,地球,生命,文明について何十年も考え続けてきたとするので,それがまとまっているであろう「宇宙誌」を購入しようと思ったのだが,「138億年の人生論」にも出てくる恐竜絶滅の原因を隕石の衝突だと特定した地質学者のウォルター・アルヴァレズが「宇宙,地球,生命,人間」を「ビッグヒストリー(ストーリー)」という観点から書いた「ありえない138億年史~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~」(Amazonにリンク)(「A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves by Walter Alvarez)がKindle本にあることを見つけ,こちらの方が大分内容が新しそうなので急遽乗り換えて目を通してみた。
私は常々,人間や社会の問題を考えるときは,進化論をふまえなければだめだと思ってはいたが,それを更に生命,地球,宇宙(物質とエネルギー)にまで広げて考えようとする「ビッグヒストリー」の試みがあることはこれまで知らなかったが,今回,「ありえない138億年史」を読んで,いたく感銘を受けた。「ビッグヒストリー」は決して「大風呂敷」を広げようとする試みではなく,物事の核心にある物質的な問題の連続(方向性と周期性)と偶然から「人間」をあぶりだそうとするもので,今までの「史観」がいかに狭苦しいものであったかがよくわかる。
取り急ぎこの2冊を紹介しよう。
「138億年の人生論」を読む(Amazonにリンク)
著者:松井孝典
出版社等による紹介
“宇宙スケール”で考えると,人生はほんとうにスッキリするのです-。人生の目的とは?教養とは?仕事とは?人間関係とは?宇宙の誕生から文明のゆくえまで,138億年の時空スケールで追究しつくす世界的惑星学者がはじめて綴る,「知的興奮に満ちた100年人生」を送るための25講
私のコメント
松井さんが自分の一貫した努力,現在の立ち位置が誇らしいのは分かるが,若い人をターゲットにした「人生論」だとしても,いささか汎用性に欠けると思う。
人生とは,頭のなかに内部モデルをつくりあげることだという全体を貫く立論は興味深いし,記述のうち,「4 「正しい問い」を立てる」,「10 「ひらめき」は普段から考えている人にのみ訪れる」,「18 過去をふりかえる暇があれば新しいチャレンジを」,「23 英語以前に「日本語で伝えるべき内容」をもつ」,「24 インターネットは歴史に逆行している」等は大いに参考になる。
その他は,お弟子さん,後輩に対する指導,意見,愚痴というところではないか。少なくても私は,雄大な気持ちにはならなかった。
「ありえない138億年史」を読む(Amazonにリンク)
~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~
著者:ウォルター・アルバレス
A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves by Walter Alvareb (Amazonにリンク)
出版社等による紹介
われわれ人間は、なぜここにいるのか? それは人類の歴史だけを見てもわからない。宇宙誕生から現在までの通史-「ビッグヒストリー」の考え方が必要だ。自然科学と人文・社会科学を横断する驚きに満ちた歴史を、恐竜絶滅の謎(隕石衝突)を解明した地球科学者が明らかにする。
歴史は必然ではない。偶然が重大な役割を担っている。宇宙、地球、生命、人間の各領域において、この世界が実際にたどった道とは異なる道をたどる可能性は無数にあった。その結果、今日のものとは異なる人間世界が生まれる可能性もあれば、人間世界がまったく生まれない可能性もあったのだ。そのため、今あるこの世界を理解するには、物理学や化学を超えて、地質学や古生物学、生物学、考古学、天文学、宇宙学などの歴史科学の領域から人間の歴史へと目を向けるべきだろう。これらの歴史科学や歴史学が、今あるこの世界の歴史について学びつつあることを知る必要があるのだ。
私のコメント
これはとても優れた本だ。京大の火山学の先生の鎌田さんが長々と「本書に寄せて」を書いているのも頷ける(なんとなく,松井さんと張り合っている気がする。)。本の内容は網羅的ではなくて,ポイントを点描するという手法だが,それが核心をついている。著者は,「138億年の人生論」でも紹介されているように,親子で恐竜絶滅の原因が隕石衝突であることを解明した子の方だ。
翻訳本の目次だとわかりにくいが,PROLOGUEがIntroduction と1章,COSMOSが2章,EARTHが3~6章, LIFEが7章 ,HUMANITYが8,9章,EPILOGUEが10章という構成だ。
第1章に,隕石衝突の証拠発見のことと著者がビッグヒストリーに取り組んだことが書かれ,第2章に宇宙の誕生から地球の誕生までがまとめられる。
著者は地質学者ということで,地球がどのように人間が利用できる資源(特に砂)生んだのか,(第3章),そして人間の活動を踏まえ,地球の大陸+海(第4章),山(第5章),川(第6章)が語られる。ここで重要なのは,プレート・テクニクスだ。
そして第7章に,人間の体に生命の歴史が刻まれているという観点から,生命の誕生から歴史が語られる。
第8章では人類の移動が語られ,第9章では,言語,火,道具の使用のうち,火の利用と青銅器の製造について詳細に語られる。
そしてエピローグで,歴史の展開について,連続(方向性と周期性)と偶然による2分法を提案する。そして偶然とは,「まれ」であること,「予測不能」であること,「重大」な意味を持つことだとする。
この本は一流の科学者が,哲学をもって,宇宙,地球,生命のみならず人類の歴史にも挑んだもので,その記述には本当に感心させられる。本来,真正面から問題にぶつかるべきであるが,私は「ビッグヒストリー」というのは今回初めて出会った手法であるので,今回は,「ありえない138億年史」のほんの上っ面だけを紹介し,現在ぞくぞくと購入して読解に努めつつある「ビッグヒストリー」関係の本によってその大要をつかみ,改めて全体像について検討したい。
私は,「ビッグヒストリー」によって,偶然と激動の自然の中に,人間をシステムの要素として位置づけることができ,システム思考と突合せできそうだそうだという予感がある。最もそんなことはとっくにやられているかも知れないが。
著者が展開している「ビッグヒストリー」のWebとして,ChronoZoomがある。
なおビッグヒストリーのうち,人間の歴史は,デヴィッド・クリスチャンという人が,ビル・ゲイツさんの協力を得て展開しつつあるようだ。ビッグヒストリーの本の多くに,デヴィッドさんが絡んでいる。