組織の問題解決

「問題解決と創造の頁」の「企業:経営と統治」の「固定ページ」を作ったので,投稿しておきます。ここらあたりこそ,私がいちばん力を入れなければならないところだと思っています。

株式会社と会計(複式簿記)

市場は,株式会社制度と複式簿記制度を見出したことから,現代企業への発展に結びついた。株式会社は,資本提供者(委託者)が,その財産の管理を,経営者(受託者)に委託する制度であり,その報告・説明が会計であり,その記録方法が複式簿記である。

更に企業会計が,国民経済計算に結びついている。

会計(複式簿記),更には,監査制度も,とても興味深い。これらは, コーポレートガバナンスの重要な要素である。

経営

経営者として一番大事なことは何か。お金になる匂いを嗅ぎ分ける能力と,人のお金を自分のお金と分別する自制心である。経営は,前者の問題である。

経営学

経営学については,「冬休みだから経営書を読もう」という記事を書いたことがある。更に「アイデア倉庫」の「経営編」にその時点で手元にあった本をまとめておいた。

我が国の企業が抱える経営問題

経営学の本を読むことは有意義だが,これを振り回したところで大して役に立つわけではない。

まず我が国の企業が抱える問題を,世界経済の中に位置づけて正確に理解する必要がある。また経営学は所詮,仮説の体系であって,現実の中でその妥当性を検証する必要がある。

その意味で,産業再生機構,経営共創基盤を率いてきた,冨山和彦さんが精力的に書いている本は参考になる。

「選択と捨象 「会社の寿命10年」時代の企業進化論」,「なぜローカル経済から日本は甦るのか」,「「決定版 これがガバナンス経営だ!―ストーリーで学ぶ企業統治のリアル」,「AI経営で会社は甦る」という流れで読み進むのがよいだろう。

更に,PHP新書に,「IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ 」,「IGPI流 ビジネスプランニングのリアル・ノウハウ」,「IGPI流 ローカル企業復活のリアル・ノウハウ」,「IGPI流 セルフマネジメントのリアル・ノウハウ」 がある。

現時点では,論評は差し控えるが,産業再生機構の経験は大きいだろう。

企業統治(コーポレートガバナンス)

これは,急遽,アベノミクスで言い出された,ルール化されたもので,出自はよろしくないが,その必要性はよくわかる。自身のビジネス体験を踏まえて記載されている「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」(著者:松田 千恵子)は,非常にピントの合った優れた本である。追って紹介したい。上記の冨山さんの「決定版 これがガバナンス経営だ!―ストーリーで学ぶ企業統治のリアル」もある。

 

問題解決と創造の知識

今まで「新しい社会とビジネスを創る」としていた項目を,「問題解決と創造の頁」に改めることにしました。それを説明した「固定ページ」を投稿しておきます。これに応じて,あちこち見直す必要があるので面倒くさそうです。

「問題」を生活・仕事,政府・企業,環境という観点から考える

このメニューはこれまで「新しい社会とビジネスを創る」としていたが,考えてみれば私が注力したいと思っていることは,このWebのキャッチフレーズとしている「法を問題解決と創造に活かす」ことなのであるから,その準備作業を志す本メニューのネーミングも,「問題解決と創造の頁」の方がより適切であることに気がついたので,変えることにした(いったん,「生活・仕事と組織」にしたが落ち着きが悪い。)。

私は何かに依拠して「新しい社会とビジネス」を創ろうと思っているのではない。私にとって最も重要な問題は,私の日々のあり方(生活・仕事)を充実させることであり,人から独立した存在として迷走する組織(政府や企業等)を適切に制御する企てに参加することである。更に生活・仕事,政府・企業の活動の環境,場となる「自然とテクノロジー」を理解し,利用,制御することである。

このように,現在,私あるいは現代社会が直面している多くの問題について,生活・仕事,政府・企業,環境の5つ要素から(更には,その複合する場合も含めて),分析,考察を巡らせ,当該問題を順次解決していくことができれば,「新しい社会とビジネスを創る」という価値創造に結実するであろうと考えているのである。

生活・仕事,政府・企業,環境について考える

現代社会は,人の基本的な活動である生活と仕事,及び人の集団である組織(支配し公共サービスを提供する「政府」及び,商品・サービスを提供する「企業」)の活動から構成されている。現代社会が抱える問題を,生活・仕事,政府・企業という観点からとらえ,解決策を考えることは,ひとつの仮説であるが,かなり有効だと思う。

農業革命以前,人の生活・仕事・組織は,分化していなかったと考えていいだろう。

しかし農業革命により人の生活・仕事・文化が分化し,その余剰生産物を収奪する「権力集団」(政府)が生じた(もっとも現在のほぼすべての政府は,民主制に基づく(支配者と被支配者が同一)と主張している。)。そして,分業の進展によって,更に「産業革命」によって決定的に,人の仕事の領域から分化した「企業」が大きな勢力となり,現在に至っているとまとめることができよう。

生活・仕事

人の生活・仕事は,いずれも進化論(繁殖,生存に有利な形質が自然選択される)を踏まえて考えるべきである。繁殖,生存の根底に性的な衝動があるとしても,ソフィストケートされたレベルでは,生活は,健康な活動を支える「食動考休」,仕事は,知識・能力の獲得と生産性の向上を目指す「アイデアをカタチに」であるとまとめていいだろう。

政府・企業

一方,組織のうち政府は,民主制のもとでは,政治参加(投票)による公共政策の実行,制御の問題である。ただし,政府を主導する政治家,官僚は,公共政策に失敗することのみならず(悲惨な被害が生じるのは戦争であろう。),その権力を冒用し私的利益を図ろうとする強いインセンティブがある。

利潤追求を目標とする企業の活動により,たとえ「見えざる手」によって資源の最適配分が図られるとしても,様々な立場の人々(消費者,取引先,株主,経営者,従業員,政府等々)に,様々な利害を与えるから,その活動が適切に制御されなければならない。

そして組織の行動については,複雑系の観点が欠かせない。

環境

人の生活・仕事や政府・企業の活動は,環境の中で(自然,及びテクノロジーを利用して)展開される。生活・仕事,政府・企業の問題解決のためには,自然とテクノロジーを理解し,利用,制御することが必須である。

まとめ

個人が,自らの意思で可能な(はずの)生活と仕事の改革・充実の問題と,独立した存在として独自のメカニズムで行動する「企業」,「政府」等(家族・地域共同体,宗教団体,学校等)の改革・制御の問題。更には自然とテクノロジーの開発・統御,保全は,それぞれ別の視角・方法によって,検討されなければならない。

このようにとらえて,現代社会(個人+組織)の「問題解決と創造にむけて」の準備作業をしよう。

メニューの構成

「問題解決と創造の頁」の暫定的なメニューは,次のとおりとする。ただし,順次手を入れていくので,当面,古い記事がそのままになっている項目も多い。

社会とビジネスの基礎

政府:力と公共政策

企業:経営と統治

問題解決と創造の方法と技術

生活:食動考休

環境:自然とテクノロジー

方法論の基礎

ITとAI

各メニューの説明

「社会と経済の基礎」には,全体の総論にあたる記事と「社会と経済の基礎となる8冊-試論」を掲載する。

これを踏まえ,「政府」について「力と公共政策」,「企業」について「経営と統治」,「仕事」について「アイデアをカタチに」,これらを支える個人の生活について「食動考休」にまとめる。更に,これらの活動の場となる「環境」について「自然とテクノロジー」にまとめる。

これに付加する「方法論の基礎」が異質だが,ここには私の基本的なスタンスである,人間と社会を,進化論,ファスト思考とスロー思考,複雑系ネットワークと分業等からとらえる基本的な考察と,数学,統計学,論理学,哲学等の方法のメモ(備忘録)を集めたいと思っている。現代の,多様な広がりのある経済学は,こちらで検討しよう。

さらに今後,「政府」,「企業」,「個人」を通じて生産性上昇をはじめ,あらゆる場面で活用されるであろう「ITとAI」についてこれまで細々と作成してきた記事を拡大して,いろいろなことを考察したい。

最後に

私が今,最もやりたいことは,弁護士として「法を問題解決と創造に活かす」活動であり,「問題解決と創造の頁」は,そのための,事実と論理を踏まえた準備作業となることを志している。このWebサイトも,やっとそういう情報発信ができるような準備が整いつつある気がする。ただITやAI,科学についての新しい知見・動向を知るには,英語文献の読解が必須なので,その意味での準備に今しばらく時間がかかりそうだ。

 

 

組織の問題解決

教養としての社会保障」を読む

著者:香取照幸

社会保障制度を理解する

「公共政策」という「窓」を通して社会を理解する上で,社会保障制度(継続して実行される「公共政策」を「制度」と呼んでいいだろう。)は,政府の活動における比重からいっても,果たす役割からいっても,もっとも重要である。

そこで厚労省の元官僚の香取さん(帯には,年金を改革し介護保険をつくった異能の元厚労官僚とある。)が書いた「教養としての社会保障」(以下「本書」という。)に目を通してみた。日本の「社会保障」の現況とその問題点,今後の方向性について,資料を添えて要領よくまとめられている。

社会保障制度の概要

社会保障制度の主要な部分は,ⅰ年金,ⅱ医療,介護,雇用,ⅲその他の給付に分けられるだろう。

本書によれば,ⅰの「年金は現役世代が高齢世代を支える制度、世代間扶養の順送りの制度であるが,年金制度は現在、約130兆円の積立金を持っている。今後の高齢者人口比率が高い厳しい25年を乗り切るために、この積立金の活用に加えてマクロ経済スライドという仕組みで給付を調整しようというのが、2004(平成16)年の年金制度改正だ。マクロ経済スライドというのは、簡単に言えば現役世代が負担できる範囲内で年金給付を調整する、という仕組みである。」。

ⅱ医療,介護,雇用は,みんなで「保険料」を出し合い,給付が必要となった人を支える共済制度だ。介護保険はこれがなければ高齢者の処遇が大問題になっていただろうから,その導入は高く評価できる。

ⅲその他は政府が費用を負担する「公共政策」と分析することができよう。

といっても,ⅰにもⅱにも,税金,国債発行分から巨額の資金が持ち出しになっているのだろう。

しかしそれぞれは,異なる経緯で設計された異なる入出金がある異なる制度である。現在これらの各制度が大きな問題を抱え,将来どうなるかという議論をするときには,とりあえずそれぞれを分けて議論すべきであろう。一緒くたに少子化,高齢化,デフレに責任があるとするのは,問題を覆い隠すだけである。

少子化というのは数値はともかくその趨勢は誰にも分っていたし,高齢化は足し算さえできれば誰でも計算できる。

デフレ(失われた20年)というのは振り返ってみた話で,バブル崩壊後の気持ちもなえる状況の中で見込むべき経済成長率は最小の数値だろう。

これらについて,社会保障制度を運営するうえで,どの時点のどの予測が違っていたから,現在の危機的な状況に陥ったのか,厚労官僚にこそ,冷静な分析を望むのが当然である。

問題の分析と著者の立ち位置

この点,著者の立ち位置は,とても気になる。

著者は,現在社会保障制度が危機的な状況にあることについて「犯人探し」をすべきではないというが,「原因探し」をすべきである。どういう予測のもとに,どういう制度を立ち上げ,あるいは変更し,予測がどうなったから,現在の状況に至っているのか,そのことについて,制度遂行にあたった政府機関に問題はなかったのかについて,冷静な分析がなされるべきである。それがあってはじめて市民として負担増が納得できるというべきである。

ⅰが最も難しい問題であることは容易に理解できる。市民としては老後に備えた任意の貯蓄はむつかしから強制徴収の制度に耐えるのである。これらについては今までどれだけの持ち出しがあったのか,マクロ経済スライドにすることで現役世代の負担がどうなり,年金給付がどうなるのか。

著者は,ミクロとマクロという言葉を持ち出し,市民は目の前の利害にとらわれ,役人や政治家のように全体の制度がわからないというが,役人や政治家がマクロがわからず制度設計をし,空手形をきったから,市民が責めたくなるのではないだろうか。

ⅱについて,日本の医療保険制度は,皆保険で効率的であると胸を張るが,病気,老化はだれもにも問題は分かりやすいし,市民に自分自身のために病気,要介護状態にならないというインセンティブがある。そして制度が民間の現場の血のにじむような努力に支えられているからそうなっているのは明らかである。厚労省が,政治家に責められて,たばこの被害の防遏から後退していることは,何とかならないのか。

社会論,経済論について

社会保障の機能の基本は上記のとおりであって,これぐらいなら誰にでもわかっている。わざわざ「社会の活力の源泉は,個人の自立と自由な選択に基づく自己実現」であるという議論を持ち出されてお説教される理由はない。

経済論も,試論,仮説であって,それだけのことである(なかなかよくまとまっているとは思うが。)。筆者が元厚労官僚の立場で力説しても,居酒屋政談といわれるのは仕方ない。

著者は,危機的な状況にある社会保障制度の「改革」を,社会論,経済論で下支えしようと思ったのだろうが,そうであれば,まず原因論を科学的に展開すべきである。そのうえで,科学的な社会論,経済論を展開すれば,もっと受け入れやすい本になったであろう。

なお,厚生労働白書も一読されたい。

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