組織の問題解決

お薦めはするが

この本は、「ニューズウィーク」でIT記事の担当だった50歳過ぎの記者である著者がリストラされ、販売拡大のためのブログツールの開発・販売をするIT企業「ハブスポット」(つい最近、Googleとの提携が報じられていた。)に転職して退職するまでの毎日の経験を辛辣に描いたものだ。スタートアップ企業の「IPO狂騒曲」の現場の活写として嗤えるし、面白い。

派手な宣伝とイメージ戦略で大量採用した低コストの若者社員たちが働くのは、キャンディの壁、ビール、ワインが出る蛇口のある遊び場オフィス、自己啓発研修は、ほとんどカルト宗教。画期的な技術もなく赤字の垂れ流しだが、とにかく売上を増やしていってIPOに持ち込めば、創業者と一部の投資家だけに株で莫大な資産が手に入る」という環境の中で 「ハブスポットのお飾りシニア社員ってどんな感じ?」と取り扱われた著者が「ハブスポット」を含むシリコンバレー企業に対する「生活と意見」を綿々と綴る。更には、日本ではあまり見かけないような、これらの企業での採用、解雇、差別、投資等々の実態も批判される。

そして、著者は、同僚との行き違い、対立、嫌がらせ!攻撃等々の過程を経て、最後は直属の「上司」との泥仕合、IPOを経て、解雇となる。

更にはその後「中年のジャーナリストが、イカれた社風になじもうと奮闘する、面白おかしい回顧録」(この本)を書いたことを「ハブスポット」に伝え編集者にその草稿を送った16日後に、直属の「上司」、その他の上司が解雇や懲戒処分を受けたが、その過程で何らかの違法行為があったようであり、FBIも関与したが立件はされず、結局何があったのかは、はっきりしない。普通に考えればこの本の情報を事前に入手しようとしていハッキング等の違法手段をとったということだろう。

違うこと

この本の中身は、ことの真実の3分の1しか伝えていないような気がする。①著者が感じた居づらさは、「幼稚園」に辛気臭い「良識」を持ち込もうとして相手にされなかったということ、②著者の経験を離れても今のシリコンバレー企業にはとても危うい面があるということ(何回も繰り返されたことだ。)、③さらにはそうであっても、シリコンバレーにはこれまでとは違う「知性」があり、人を熱狂させたりお金を呼び込んだりする魅力があるということだ。この本には①が多く、しかも①から②が書かれているので、多少いやになる。③は故意に避けているのだろう。

もっともこの本の中で触れられているシリコンバレーの話は、③から見ていては気が付かないものも多く、物事を立体的に見るる上でとても参考になる。

だからお薦めはするが、複雑な感想を生む本だ。

詳細目次

組織の問題解決

弁護士と経営

経営法曹という古い言葉がある。一見、経営問題が分かる法曹という意味のようだが、昔は経営問題が分かる法曹ほとんどいなかったから、単に「経営寄り」の法曹を揶揄していう言葉だったと理解することが正しい。

もちろん、企業は、様々な法律問題を抱えているから、経営に関わる、例えば「商事法務」や「コンプライアンス」という分野もこなす弁護士は多くいたが、彼らが経営問題を理解しようとしていたかは、多分に疑問である。

こういう状況は、司法改革の一環としてロースクール制度が導入され、様々な専門的知識を有する人材が法曹に流入する中で、当然経営学を専攻する人材も確保され、一変することが予想されたが、残念ながら、弁護士増員数を市場原理ではなく、「理念」に委ねたため、供給過剰となってしまい、司法改革自体が相当部分で頓挫してしまったというのが現実である。

だから普通の弁護士が、経営問題を理解しようとして経営書を読もうというのは、今でも十分に意味がある。もちろん、経営書を読んで経営問題を理解することと、企業を経営することが、別物であることは十分に理解しなければならない。

今、経営学の本は百花繚乱だ

経営書といっても、「根性もの」や「技術もの」は横に置くとして、経営学の本を取り上げるだけでも百花繚乱だ。ということは、学問として十分に成熟していないということだが、そもそも経営学が、経験の体系化を超えて学問たり得るかどうかには根本的な疑問がある。それは今後考察していくとして、とりあえずどこからはじめるか。

これについては、最近、若い学者らが、経営学の全体を俯瞰するような何点かの経営書を刊行していて、鋭い分析をしているアメリカの経営学書のように心は揺さぶられないものの、ここらあたりが「入口」として適当だろうと思うので、そこから読みはじめよう。当面、6点の経営学書に目を通そう。

経済的価値と社会的価値を同時実現する-共通価値の戦略

ところが今日(2014年12月28日)、Kindle本を見ていて、「経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略」という「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」の論文の短いKindle本を見つけた。著者の一人は、なんと、マイケル.E.ポーターである。

題名に惹かれて早速買って読んでみたが、ここには今私たちが「資本主義」に対して抱いている疑問の一つの回答があると思った。

これについてはまた検討したいが、Amazonに添って簡単に要約すれば、「共通価値」(shared values)という概念は、経済的価値を創出しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創出するというアプローチである。これまでの資本主義の考え方は、「企業の利益と公共の利益はトレード・オフである」、「低コストを追求することが利益の最大化につながる」といったものであり、もはや正しいとはいえない。共通価値の創造に取り組むことで、新しい資本主義が生まれてくる。成長の次なる推進力となるだろう。

共通価値がもたらすチャンスを見極める方法は、「製品と市場を見直す」、「バリューチェーンの生産性を再定義する」、「事業を営む地域に産業クラスターを開発する」の3つであるとして、検討している。

誰でも経営学は、企業のための言説でうさんくさいと思っているし、いつから経済が、多くの人の人生の大問題になったのだと疑問に思っている。一方、経済的な価値生産がうまくいかなければ人生が悲惨なことも理解している。経済的価値を創出しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創出するのが、新しい企業であり、仕事であるとすれば、楽しく仕事ができるであろう。これが「解決策」だとは思わないが、一つの回答案として評価したい。

今後のスケジュール

だいたい次のような順番で行こう。ゆっくり読んで行けば良い。

これだけ読めば経営問題についての「穏当妥当な理解」はできるだろう。でもあくまで「穏当妥当な理解」にとどまるだろう。独創的な経営は、どこにあるのか、多分足元だ。

 

組織の問題解決

「世界一わかりやすいプロジェクト・マネジメント第3版」を紹介する

G.マイケル キャンベル サニー ベーカー
総合法令出版
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はじめに

ある仕事をする中で、プロジェクト・マネジメントについて報告したことがあるので転載しておく。作成は2014年4月頃である。「続きを読む」以降の後半は、目次に若干のコメントを付けただけだが、レジュメとして利用していただきたい。

 

原題は「The Complete Idiot’s Guide To Project Management」で?と思うかも知れないが、非常に評価の高い本である。なお「ゴール」の著者ゴールドラットが「制約条件」の理論をプロジェクト・マネジメントに適用したのが「クリティカル・チェーン」という本であり、本書の中でもプロジェクトの継続的な改善手法として評価介されている(P187、188。それを日本人著者が紹介した「最短で達成する全体最適のプロジェクトマネジメント」がある。)。

また最近入手したものだで、新たなビジネスを立ち上げるという観点からその方法を検討したものに、「リーンスタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」(「The Lean Startup」by Eric Rise)、「 スタートアップマニュアル ベンチャー創業から大企業の新事業立ち上げまで」(「The Startuo ownaer’s Manyal」 by Steve Blank and Bob Dorf)があり、これらも我々にとって非常に参考になると思われるので、今後引き続き紹介したい。

また創造的な発想を取り上げた書籍はたくさんあるだろうが、スタフォード大学集中講座1「20歳のときに知っておきたかったこと」、同2「未来を発明するためにいまできること」(ティナ・シーリグ)が斬新である。

プロジェクトマネジメントについては、アメリカのプロジェクトマネジメント協会が「プロジェクト・マネジメント知識体系ガイド」(PMBOK)を刊行している。なお本書とPMBOK(日本語版)以外は、すべてKindle本で入手できる。

読解の前提となる必須語句の説明

・スコープ

プロジェクト完成に要する作業量の規模。

・マイルストーン
「里程標」。プロジェクト実施上の重要な節目、通過点。重要な作業の完了時点に置くことが多い。

・クリティカル・パス
プロジェクトの作業をつなぐ複数の経路の中で、最長の所要時間の経路。クリティカル・パス上にある作業のどれかひとつが遅れると、プロジェクト全体の遅れに直結する。
・SOW(作業範囲記述書) Statement Of Work
プロジェクトのマスタープラン策定の中から明らかになった、プロジェクト目標や作業記述書、リスク、前提条件などをひとまとめに統合した書類。

・WBS(作業分解図) Work Breakdown Structure
プロジェクトをまず大きな単位(マイルストーンということもある。)に分解し、それを更に小さく分解して、最下位の単位であるワーク・パッケージを洗い出す。プロジェクト完成に必要な作業を組織化し、要約した文書。ただし依存関係は、表示できない。

・ネットワーク図  Network Diagram
プロジェクト作業を実施順序に従って論理的に並べた図。左から右に時間の流れをとり、各作業の依存関係を線で結ぶ。大規模プロジェクトでは、ネットワークを階層化し、第1階層にマイルストーンをすべて盛り込み、第2階層で各マイルストーンの完了に至るサブプロジェクトを示す・・などとすることもある。

・プロジェクト計画書 Project Plan

全体の流れ

・作業の過程(フェーズ)は、定義、計画、実行、コントロール、終結に分けることができるが、当面、定義、計画フェーズが重要であり、何が何でも計画フェーズの最終目標であるしっかりした「プロジェクト計画書」を作成しなければならない。それができれば、実行、コントロールフェーズも乗り切ることができ、終結(完成)を迎えることができる。

定義フェーズ

・定義フェーズにおいては、利害関係者(ステークホルダー)を明確にし(プロジェクトメンバー、取締役会、法務監査部、プロジェクトに参加する消防、医師、ジェット機関係者、役所、業者等等)、プロジェクトの目標、成果物の外、事業の範囲(スコープ)、コストとスケジュールの見込み、指揮命令系統、各人の役割とリスクと制約条件等を検討して、SOW(作業範囲記述書)を作成する。

・目標には、SMART(Specific=具体的,Measurable=測定可能,Agreed-upon=合意されている,Realistic=現実的,Time-limited=期限が明確)+C(clear responsibility=責任が明確)の基準がある。

計画フェーズ

・計画フェーズにおいては、作業を分解して本当ににやるべきことをWBS(作業分解図)にし、これを実施順序に従って論理的に並べたネットワーク図を作成する。更に所要期間を見積もり、予算を作り、強力なチームを作り、資源を確保し、そのすべてをまとめて、プロジェクト計画書を作り、取締役会(運営委員会)の承認を得る。
・ネットワーク図(P153)が参考になる。

その後のフェーズ

・ 実行フェーズにおいて重要なのは、プロジェクトを正しく起動させ、プロジェクト・マネジャーがリーダーシップを発揮してチームを活性化し、コミュニケーションをとること等である。

・ コントロールフェーズにおいて重要なのは、スケジュールとコストを監視・コントロールし、計画の変更管理プロセスを確立し、プロジェクト成果物を通常業務に移管すること等である。

・ 終結フェーズにおいては、プロジェクトを振り返り、最終報告書を作成する。