組織の問題解決

「ドラッカー あれこれ」の種本

ドラッカーについて,備忘のために,あれこれまとめておく。参考にするのは「P.F.ドラッカー 完全ブックガイド」(上田惇生),「ドラッカー入門 新版」(上田惇生),「究極のドラッカー」(國貞克則)等である。

ドラッカーの略歴と「傍観者の時代」

ドラッカーは,1909年ウィーンに生まれ,ドイツ,イギリスを経て,1937年にアメリカに移住し,大学,大学院で教え,多くの本,論文を書き,2005年に死去した。

69歳の時に出版された半自伝の「傍観者の時代」には,1943年のGM調査の頃までに(1946年「企業とは何か」),ドラッカーと交流,関係のあった綺羅星のごとき人物の言動が挙げられている。ドラッカーがそのような人物と知り合うことのできる家に生まれ,その機会があったということでもあるが,ソ連と共産主義の迷走,第一次大戦,ナチスの台頭,殺戮,第二次大戦等の時代,社会の流れの中で生き抜いていく「真摯」な姿勢(ドラッカーの翻訳で多用される。)があったからこそ,その交流,関係を切り開くことができたのであろう。

まず「傍観者の時代」に挙げられた人名をあげてみよう。

おばあちゃん,シュワルツワルト家のヘムとゲーニア,エルザ先生とゾフィー先生,フロイト,トラウン伯爵と舞台女優マリア・ミュラー,ポランニー一家(マイケル,カール等),クレイマーとキッシンジャー,ヘンシュとシェイファー,ブレイルズフォード,フリードバーグ商会,ヘンリー・ルース,フラーとマクルーハン,アルフレッド・スローン,ジョン・ルイス等々が,生き生きと駆け抜けている。時代の激動の中で忘れられた人も多いが,フロイト,ポランニー,フラー,マクルーハン等々,びっくりする。ドラッカーの人生の重みが伝わってくる。また後述する「影響を受けた思想家」も多様である。

これらを基盤に,ドラッカーは,多くの単行本,論文を書いている。

次にドラッカーの著作をみてみよう。

著作

ドラッカーの著作は,三十数冊と言われるが,正確な数はカウントしがたい。と言うのは,抜粋集や名言集があったり,これらについて日本語版が先行し英語版が刊行されたりと複雑だ。英語版の著作は,下記の「BOOKS BY PETER F. DRUCKER」記載のとおりである。

日本語の抜粋集として,「はじめて読むドラッカー」3部作があり,「プロフェッショナルの条件」(自己実現編),「チェンジ・リーダーの条件」(マネジメント編),「イノベーターの条件」(社会編)で構成されていた。そのうち第2作を中心として「The Essential Drucker」が,第1作,第3作を受けて「A Functioning Society」が刊行されている。なお,その後「はじめて読むドラッカー」第4作として「テクノロジストの条件」が刊行されている。

その他,抜粋集として「ドラッカー365の金言」(The Daily Drucker)。名言集として「仕事の哲学」,「経営の哲学」,「変革の哲学」,「歴史の哲学」がある。

ドラッカーの著作として「経営学書」は2冊しかないというはなしがある。経営戦略の端緒を開いた「Managing for Results」(もともとは,「Managing Strategy」だった。),経営学としてイノベーションをはじめて考察した「Innovation and Entrepreneurship」である。その他は,多かれ少なかれ,社会,政治,歴史がらみであり,ドラッカーはジャーナリストであるという見方にも根拠がある。

BOOKS BY PETER F. DRUCKER

MANAGEMENT

The Daily Drucker /The Essential Drucker /Management Challenges for the 21st Century /Peter Drucker on the Profession of Management /Managing in a Time of Great Change /Managing for the Future /Managing the Non-Profit Organization /The Frontiers of Management /Innovation and Entrepreneurship /The Changing World of the Executive /Managing in Turbulent Times /Management Cases /Management: Tasks, Responsibilities, Practices /Technology, Management and Society /The Effective Executive /Managing for Results /The Practice of Management [Concept of the Corporation

ECONOMICS, POLITICS, SOCIETY

Post-Capitalist Society /Drucker on Asia /The Ecological Revolution /The New Realities /Toward the Next Economics /The Pension Fund Revolution /Men, Ideas, and Politics /The Age of Discontinuity /Landmarks of Tomorrow /America’s Next Twenty Years /The New Society /The Future of Industrial Man /The End of Economic Man

AUTOGRAPHY

Adventures of a Bystander

FICTION

The Temptation to Do Good /The Last of all Possible Worlds

ドラッカーに影響を与えた思想家

「P.F.ドラッカー 完全ブックガイド」に「ドラッカーに影響を与えた思想家」が紹介されている。参考になるので転載する。

社会生態学のルーツ─哲学、政治思想、経済、歴史、社会,そして小説すらも

 ウォルター・バジョット(1826ー1878)

アレクシ・ド・トクヴィル(1805ー1859)

ベルトラン・ド・ジュヴネル(1903ー1987)

フェルディナンド・テンニース(1855ー1936)

ゲオルグ・ジンメル(1858ー1916)

ジョン・R・コモンズ(1862ー1945)

ソースティン・ヴェブレン(1857ー1929)

継続と変革の相克を

ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(1767ー1835)

ヨゼフ・フォン・ラドヴィッツ(1797ー1853)

フリードリッヒ・ユリウス・シュタール(1802ー1861)

技術の見方、社会における技術の位置づけ

アルフレッド・ラッセル・ウォレス(1823ー1913)

ジョゼフ・シュンペーター(1883ー1950)

言語に対する敬意

フリッツ・マウトナー(1849ー1923)

カール・クラウス(1874ー1936)

セーレン・キルケゴール(1813ー1855)

年表

1909…0歳。11月19日,オーストリア・ハいかくンガリー帝国の首都ウィーンに生まれる。父アドルフ(1876ー1967)は貿易省次官(のち退官して銀行頭取,ウィーン大学教授,アメリカに亡命してノースカロライナ大学,カリフォルニア大学ほか教授)。母キャロライン(1885ー1954)はイギリス人銀行家を父とする。ウィーン大学医学部を卒業後,チューリッヒの神経科クリニックで1年ほど助手をつとめた。開業することなく家庭に入ったが,当時としては珍しい女性神経科医。

1914…4歳。第1次世界大戦勃発。

1917…7歳。父親に精神分析学者フロイトを紹介され,強い印象を受ける。フロイト『精神分析入門』発表。

1918…8歳。11月11日,第1次世界大戦終結。ハプスブルク家は滅び,オーストリアは分割され共和国となる。

1919…9歳。ウィーンのギムナジウムに入学。授業は退屈でうんざりしていたという。

1927…17歳。飛び級で1年早くギムナジウムを卒業しウィーンを出る。ドイツに移住し,ハンブルグで事務見習いとして商社に就職。ハンブルグ大学法学部入学。大学入学審査論文は「パナマ運河の世界貿易への影響」。

1929…19歳。フランクフルト大学法学部へ編入。当時無名だった19世紀のデンマークの思想家キルケゴールを知り,読みふける。フランクフルトで米系証券会社に就職するも,世界大恐慌(暗黒の木曜日)で倒産。

1930…20歳。地元有力紙「フランクフルト・ゲネラル・アンツァイガー(フランクフルト日報)」の経済記者となる。

1931…21歳。入社2年後,副編集長に昇格。この頃から,ナチスの政権掌握を予測し,ナチス幹部に何度も直接インタビューする。国際法で博士号を取得。博士論文は「准政府の国際法上の地位」。この頃,後に生涯の伴侶となる下級生ドリス・シュミットと出会う。

1933…23歳。ヒトラーが政権掌握。初の著作『フリードリッヒ・ユリウス・シュタールー保守主義とその歴史的展開』を名門出版社モーア社より法律行政叢書第100号記念号として出版後,禁書とされて焚書処分。一度ウィーンに戻ってからロンドンに逃れる。地下鉄のエスカレーターでドリスとすれ違い再会を果たす。

1934…24歳。ロンドンのシティで,マーチャントバンクのフリードバーグ商会にアナリスト兼パートナー補佐として就職。ケンブリッジ大学で経済学名ケインズの講義を聴くも,肌に合わず。自分は経済学徒ではないことを確信する。雨宿りに入った画廊で日本画に遭遇。

1937…27歳。ドリスと結婚して,アメリカへ移住。『フィナンシャルータイムズ』他に寄稿。フリートバーク商会などにアメリカ経済短信を送付。

1938…28歳。『ワシントン・ポスト』他に欧州事情を寄稿。

1939…29歳。処女作『「経済人」の終わり』出版。『タイムズ』紙書評欄で,後のイギリス宰相チャーチルの激賞を受ける。ニューヨーク州のサラ・ローレンス大学で非常勤講師として経済と統計を教える。

1940…30歳。短期間,経済誌『フォーチュン』の編集に携わる。

1941…31歳。日米開戦直後(誕生日を迎え32歳)のワシントンで働く。フリーア美術館で日本美術に傾倒。

1942…32歳。バーモント州のベニントン大学で,教授として政治,経済,哲学を教える。アメリカ政府の特別顧問を務める。第2作『産業人の未来』出版。

1943…33歳。『産業人の未来』を読んだGM幹部に招かれ,世界最大のメーカーだったGMの組織とマネジメントを1年半調査する。アルフレッド・スローンから大きな影響を受ける。アメリカ国籍を取得。

1945…35歳。第2次世界大戦終結。

1946…36歳。GM調査をもとに,第3作『企業とは何か』を出版。「分権制」を提唱する。フォードが再建の教科書とし,GEが組織改革の手本とする。ここから世界中の大企業で組織改革ブームが始まる。

1947…37歳。欧州でのマーシャループラン実施を指導。

1949…39歳。ニューヨーク大学大学院経営学部教授に就任。大学院にマネジメント研究科を創設。

1953…43歳。ソニー,トヨタと関わりをもつ。

1954…44歳。『現代の経営』出版。マネジメントの発明者,父といわれるようになる。

1947…47歳。モダンからポストモダンへの移行を説いた『変貌する産業社会』出版。

1959…49歳。初来日。立石電機(現オムロン)などを訪問。日本画の収集を始める。

1964…54歳。世界初の経営戦略書『創造する経営者』出版

1966…56歳。日本の産業界への貢献により,勲三等瑞宝章を授与される。万人のための帝王学とされる『経営者の条件』出版。

1969…59歳。今日まで続く転換期を予告した『断絶の時代』出版。後年,サッチャー首相が本書をヒントに民営化政策を推進。世界の民営化ブームはここからはじまる。

1971…61歳。カリフォルニア州クレアモント大学院大学にマネジメント研究科を創設。同大学院教授に就任。

1973…63歳。マネジメントを集大成して『マネジメント』出版

1975…65歳。『ウォールーストリートージャーナル』紙への寄稿開始。以降20年にわたり執筆。

1976…66歳。高齢化社会の到来を予告して『見えざる革命』出版。

1979…69歳。半自伝『傍観名の時代』出版。クレアモントのポモナーカレツジで非常勤講師として5年間東洋美術を教える。

1980…70歳。いち早くバブル経済に警鐘を鳴らした『乱気流時代の経営』出版。

1981…71歳。GEのCEOに就任したシャッターウェルチと一位二位戦略を開発。『日本成功の代償』出版。

1982:72歳。初の小説『最後の四重奏』出版。『変貌する経営名の世界』出版。

1984…74歳。小説『善への誘惑』出版。

1985…75歳。イノベーションの体系化に取り組んだ『イノベーションと企業家精神』出版。

1986…76歳。雑誌への寄稿論文を集めた『マネジメントーフロンティア』出版。

1989…79歳。ソ連の崩壊やテロの脅威を予見した『新しい現実』出版。

1990…80歳。NPO関係者のバイブルとされる『非営利組織の経営』出版。東西冷戦終結。

1992…82歳。大転換期の指針を示す『未来企業』出版。

1993…83歳。知識社会の到来を指摘した『ポスト資本主義社会』,自らを「社会生態学者」と定義した『すでに起こった未来』出版。

1995:85歳。『未来への決断』出版。

1996…86歳。『挑戦の時』『創生の時』(英語版『ドラッカー・オンーアジア』)出版。

1998…88歳。『ハーバードービジネスーレビュー』誌の論文を集めた『P.F.ドラッカー経営論集』出版。

1999…89歳。ビジネスの前提が変わったことを示す『明日を支配するもの』出版。

2000…90歳。ドラッカーの世界を鳥瞰するための入門編として,日本発の企画「はじめて読むドラッカー・シリーズ」3部作『プロフェッショナルの条件』『チェンジーリーダーの条件』『イノペーターの条件』出版。

2002…92歳。雇用やマネジメントの変化を論じた『ネクストーソサエティ』出版。アメリカ大統領より最高の民間人勲章「自由のメダル」を授与される。

2003…93歳。「ドラッカー名言集」四部作,『仕事の哲学』『経営の哲学』『変革の哲学』『歴史の哲学』出版。

2004…94歳。『実践する経営名』出版。日めくリカレンダー風名言集『ドラッカー365の金言』出版。

2005…95歳。「日本経済新聞」にて「私の履歴書」連載,書籍化。「はじめて読むドラッカー・シリーズ」第4作『テクノロジストの条件』出版。11月11日,クレアモントの自宅で死去。96歳の誕生日になるはずだった1月19日,わが国にドラッカー学会が設立される。

2006…100歳の誕生日を祝う予定で生前に本人とともに企画した「ドラッカー名著集」12作品15冊,『経営名の条件』『現代の経営』より刊行開始。上田惇生著『ドラッカー入門』出版。

2007…名著集『非営利組織の経営』『イノベーションと企業家精神』『創造する経営者』『断絶の時代』『ポスト資本主義社会』『「経済人」の終わり』出版。生前ドラッカー本人より依頼を受けて取材執筆したエリザベス・ハース・イーダスハイム著『P・F・ドラッカー理想企業を求めて』出版。

2008…名著集『産業人の未来』『企業とは何か』『傍観名の時代』『マネジメント《上・中・下》』出版完了。『プロフェッショナルの原点』出版。

2009…『経営者に贈る5つの質問』『ドラッカー時代を超える言葉』山版。岩崎夏海著『もし高校野球の女子マアネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(もしドラ)発行。

2010…『【英和対訳】決定版ドラッカー名言集』『ドラッカー・ディフアレンズ』出版。上田惇生監修,佐藤等編著『実践するドラッカー【思考編】』出版。【行動編】

2011…ブルースーローゼンスティン著『ドラッカーに学ぶ自分の可能性を最大限に引き出す方法』出版,上田惇生著『100分de名著ドラッカーマネジメント』出版。上田惇生監修,佐藤等編著『実践するドラッカー【チーム編】』出版。「もしドラ」ブームを受け『マネジメント【エッセンシャル版】』100万部突破。

2012…上田惇生監修,佐藤等編著『実践するドラッカー【事業編】』山版。『マネジメント』(リバイスドエディション)出版予定。

 

 

法とルール

依頼者が海外との仕事をする際,その仕事に弁護士として参加,支援するために必要となる準備事項・前提事項をまとめておく。なおこの項目については,日弁連が実務研修をしている事項が多いので,適宜それを引用する(日弁連「…」とする。)。内容について疑問があれば問い合わせていただきたい。

国際法と異文化理解

海外との仕事をするということは,日本国に属する私たちと,X国に属するY企業が向き合う関係だから,国と国との慣習,マナーである最低限の国際法を踏まえる必要がある。そうでないと思わぬ対立を招く。手頃な入門書として「国際法第3版」を紹介しておく。

また,人間対人間だからわかるだろうという前に,「異文化を理解する」姿勢を持つことが重要だ。これについては,まず「異文化理解 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養」という本を読んでみることだ。個別事案への対応はそれからだろう

国際貿易

日本企業が輸出入に関与することはそれこそ日常茶飯時だから,弁護士がその実務に関与することは少ないが,対象商品に問題が生じた場合に,その対応を依頼されることが多い。多いのは輸入商品であるが,交渉レベルで解決すればともかく,裁判,執行の問題になることも多いが,海外で回収できる場合は少ない。日弁連「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第1回 海外取引に関する法的留意点」及び「貿易実務~中小企業の海外展開を支援するために必要な知識を中心に~」が参考になる。

国際私法と国際裁判管轄,及び国際租税

国際私法と国際裁判管轄は,海外との取引に紛争が生じた場合に,どこの裁判所に管轄があり,どこの法律が適用になるかという問題である。法律学の一分野であり,論理適用の問題であるが,その実効性が問題である。日弁連「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第2回 海外進出に関する法的留意点」及び「国際取引分野における国際私法の基本体系と動向」が参考になる。

海外との取引に関する税務問題も重要である。日弁連「税務面を考慮した中小企業海外取引の法的構造」は得難い情報である。

国際契約

海外との仕事の出発点は契約だ。さすがにすべて口頭でというケースはないが,重要なことの検討が不十分な契約書が多い。国際契約については,英文契約書がモデルになるメースが圧倒的に多い。日本での契約書にもその影響がある。

英文契約書を学ぶには,まず「はじめての英文契約書の読み方」(著者:寺村淳)をじっくり読みこむのがいい。そのうえで,「米国人弁護士が教える英文契約書作成の作法」(著者:チャールズ・M・フォックス(原書:Working with Contracts: What Law School Doesn’t Teach You by Charles M. Fox)がよさそうだ。

日弁連の研修には,「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第3回 英文契約の基礎知識(総論)及び国際取引契約の基礎(各論)」,及び「英文契約書作成の実務」の「第1回 英文ライセンス契約書作成の留意点」「第2回 英文製造委託契約書作成の留意点」「第3回 国際販売店契約の基礎」がある。復習用にいい。

海外進出実務

アメリカ,EU,中国,韓国についてはすでに十分な蓄積があるし,割と身近に実例も多くて,見当もつけやすいだろう(EUは,分かりにくいところもあるが,まずJETROで情報収集すべきであろう。)。アジアについては,「海外進出支援実務必携」に網羅的な情報が記載されている。

ここではASEANを考える。

ASEANに企業進出する際の基本的な問題点は,日弁連「海外子会社管理の実務~ケーススタディに基づくポイント整理~」,及び「中小企業の海外展開サポートにおける法律実務~失敗事例から学ぶ成功ノウハウ~」に貴重な情報がある。

そのうえで各国別の情報を丹念に検討すればいい。日弁連の研修には,「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題」「第4回 現地法の基礎知識-中国法・ベトナム法」「第5回 現地法の基礎知識-発展途上国との取引の注意点」,「現地法の基礎知識-タイ法」,「現地法の基礎知識-インドネシア法」がある。

注意すべき点

金銭移動が伴う海外案件で注意すべき点だが,昔は外為法がとても大きな意味を持ったが今は基本的には事務的なことと理解していいだろう(日銀Web)。それに変わって今大きな意味を持つのが,マネーロンダリングである。これについて実務家は,今,細心の注意を払う必要がある(外務省Web)。そうではあるが,マネーロンダリングは,①犯罪収益,②テロ資金,③脱税資金の監視ということであり,①はさほど大きな拡がりを持つものではないし,②はかなり限定された時期,地域の「政治的な問題」である。③は国によって考え方が違う。また仮装通貨が多用されるとこれはどうなるのかという疑問もある。

 

 

IT・AI・DX

この投稿記事は、「弁護士業務案内」、「AIと法」の固定記事として作成したものです。内容は逐次改定しますので、最新の内容は、こちらを見てください。

AIに期待すること

「私は、現時点で、(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは、法律が自然言語によるルール設定であることから、①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや、②適用範囲(解釈)についての法的推論について、これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは、証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても、ベイズ確率や統等計の科学的手法がとられていなかったことである。」と指摘し、これを変える「方向性を支えるのがIT・AIだとは思うが、まだ具体的なテクノロジーというより、IT・AIで用いられる論理、言語、数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」と書いた(「プロフェッショナルの未来」を読む。)。「そしてこれが実現できれば、「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと、また「国家」(立法、行政、司法)がどのような振舞いをしようと、上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば、依頼者の役に立つ「専門知識」の提供ができると思う。」」とも考えている。

イギリスでの議論

「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには、「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり、これは、上述書の対象を法曹に絞り、さらに詳細に論じているようだ。

これに関連するKindle本を検索していて関連図書として「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。でたばかりの新しい本である。そしてその中に(1.5)、内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。

Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.

Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.

Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.

Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.

Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.

 

このように紹介されたこの本の内容と、私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのか、しばらく、この本を読み込んでみようと思う。

AIに期待しないこと

実をいうと、「人工知能が法務を変える?」という質問に答えれば、今後、我が国の法律実務の現状を踏まえ、これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし、そもそも世界の中で日本語の市場は狭い。開発のインセンティブもないし、開発主体も存在しない。ただ、英語圏で画期的な自然言語処理、事実推論についての技法が開発されることがあれば、それはまさに私が上記したような、法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。

したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは、AIに期待し、怯えることではなく、「仕事に役立つIT技法」の習得、すなわち業務の生産性と効率性に力を注ぐことではないだろうか。それをしないと、弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく、他の国際レベルで不採算の業種もろとも自壊していくのではないかと、私には危惧されるのである。

今後、「AIと法」について、新しい情報、新しい考え方を集積していきたい。