裁判を考える

裁判制度について

裁判は,古来からかなり普遍的に見られる制度であるが,その具体的な内容は,地域,時代によって相当に異なる。これらは法制史として検討されている,ただし,現在,その差異は,相当程度,縮まっていることは間違いないが,それでも他国の裁判制度を,そこで適用される法令も含めて理解することはそう簡単ではない。

ただ裁判制度のように,関係者に対して具体的な影響があることを理解しつつ,その方法を意識して事実を認定し,判断する機会(制度)は多くはないから,それなりに優れた制度として検討の対象となることが多いのは,理解できる。ただ裁判制度を論じる人はどうしても「焦点効果」にとらわれ,たかだか政府の1部門である司法機関が,持ち込まれた案件についての対応の問題であることを見失い,過大評価することが多い。確かにしっかりした法制度,裁判制度が機能していることが秩序維持や経済発展のために重要であることが指摘されているが,裁判所が世の中をよくしたり,経済発展させたりするわけではない。

裁判制度を考察する視点で重要なのは,その論理性と科学性である。参考本として次の2冊を挙げておこう。

「法廷に立つ科学 「法と科学」入門」(著者:シーラ・ジャサノフ) (Amazon・本の森)

「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」(著者:ダニエル・J・レヴィティン) (Amazon本の森

一般に刑事裁判の方がなじみがあるが,これには複雑な要素・考慮が含まれるので,まず民事裁判を取り上げよう。

日本の民事裁判制度

日本の民事裁判制度は,当事者が①法令を解釈,整理し,権利発生根拠事実と権利発生障害事実等に分別した要件事実を主張して,立証し,裁判所が②要件事実が証拠で認められるか否かの認定をし,③そこから論理的に得られる結論を判断(判決)する建前だ。その限りではごくフラットな制度である。ただ②事実認定が自由心証主義と経験則だけではさすがに時代遅れでまずいので,ベイズ確率や統計の科学的手法が検討されるべきであること,及び③判決が実は論理的になっていないことが問題であるが後述する。

常識的な観点から日本の民事裁判全体について概観した参考本として次を挙げておく。

「<完全講義>民事裁判実務の基礎-訴訟物・要件事実・事実認定」(著者:大島眞一)(ただし,現時点では,入門編,上下,発展編の4冊となっている。) (Amazon・本の森)

①-1法令の解釈と要件事実

民商法の法令の解釈と要件事実について,(元)裁判官を中心に,精緻な議論がなされていると言えよう。弁護士が訴訟を追行するときは,対象事案に適用される法令について,現在,裁判所で主流となっている解釈と要件事実を踏まえることが必要なので,その意味では重要である。ただ要件事実論は,分析の前提となる法の機能や法解釈学のモデル,概念がどこまで検討されているのかという疑問があり,深入りしても意味がない。不安定な土俵での主張であるのに当事者はそれに無自覚であるというのが私の評価である。ここは適当にスルーしよう。参考本を紹介しておく。なおこの分野の「聖典」は司法研修所の何冊かの本だが,通常は入手しにくいので,ここでは掲載しない。

「裁判官が説く民事裁判実務の重要論点 契約編/基本原則(権利の濫用)編/家事/人事編」(著者:加藤 新太郎他) (Amazon・本の森)

「要件事実の考え方と実務」(著者:加藤 新太郎他) (Amazon・本の森)

「要件事実論30講」(著者:村田 渉他) (Amazon・本の森)

「要件事実マニュアル1~5」(著者:岡口 基一) (Amazon・本の森)

要件事実論に深入りしたい人は,昔私の近所に住んでいた元裁判官の橋本昇二さんに次の本,論文がある。

「要件事実の基本問題 」 (Amazon・本の森)

「要件事実原論ノート」 CiNii

①-2立証

弁護士がする立証についての実務的な参考本として,次の3冊を挙げておこう。

「民事弁護における立証活動」(日弁連発行)

「立証の実務 改訂版 ―証拠収集とその活用の手引」(群馬弁護士会編) (Amazon・本の森)

「民事尋問技術 第4版」(著者:加藤 新太郎他) (Amazon・本の森)

③判決

日本の裁判制度は,当事者から,法令を解釈,整理し,権利発生根拠事実と権利発生障害事実等に分別した要件事実を目標にした,主張,立証があり,裁判官は,要件事実についてそれが認められるか否かについて認定をし,判断をするという段取りのはずだ。

しかし実際は判決の段階で,いきなり要件事実から離れ,主観的に設定した「争点」についての判断をするというのが,現在の新様式の「判決書」だ(といってもこれは平成2年に提言され定着したものだから,新様式でもないが。)。これについて「「当事者のための判決」という観点から,当事者にとって分かりやすい構造の判決書にし,当事者にとって分かりやすい文章によることを目指したものです。また,そのことによって,裁判官の判決起案の労力を軽減し,それまで判決起案に傾注していた労力を結審に至るまでの審理の充実と促進とに振り向けることをねらったものです」という率直な評価が元裁判官からなされている(「法律文書作成の基本(第5章AⅠ2)」(著者:田中豊)。裁判官の労力を軽減し分かりやすいといわれるものが,どういうものに変質するかを想像すれば良い。)。導入を提言した裁判官らは,「リアリスト」だったのだろうが,ときに視野の狭い「リアリスト」には想像もできない惨状が生まれ,いったん生まれた惨状は当事者である裁判官には改革する動機がないから継続し続ける。

実際,代理人として判決を受け取ると,裁判官が主観的に設定した「争点」について,感情に流れ,バイアスに充ちた判断を繰り返す耐えがたい判決書が決して少なくない。要件事実に沿って判断していれば決してあり得ないことだし(私の修習生のときに裁判官から,判決を書く段階になって整理すると,ときにそれまで思っていた結論が変わることがあるという話を聞いて,要件事実に基づく判決をを見直したことがある。),要件事実が認定できないから請求が棄却されたというのであれば,さらなる立証を考えれば足りるのだが,主観的な思い込みを吐露されても是正しようがない。

裁判官は弁護士の要件事実の無理解,主張,立証の不備を盛んに指摘したがるが,自分達の新様式「判決書」が,裁判制度の不安定さ,誤判率の高さや,その反面としての裁判官の権威主義的体質を招いているということに無自覚である。ここでは新様式の判決書が導入された当時の裁判官が修習生に及ぼす影響を危惧して書いた「指導方針」を読んでみよう(こちらに引用)。修習生を裁判官に置き替えてみればその危うさが良く分かる。

解決策は簡単で,要件事実に基づく判決に変えることだ。

ここは余り触れられない問題なので,今後しっかりした論陣を張ろう。

弁護士業務から見た民事裁判制度

日本の民事裁判制度が上記のような大きな問題を抱えているにしても,当面弁護士はこの枠組みの中で,依頼者の「問題解決と創造」のために最善の努力をしていくしかない。

そのための,弁護士の業務のあり方を検討した参考本を3冊ほど掲記しておこう。

「若手弁護士のための民事裁判実務の留意点」(著者:圓道 至剛) (Amazon・本の森)

「弁護士業務の勘所」(著者:官澤里美) (Amazon・本の森)

「法律文書作成の基本」(著者:田中豊) (Amazon・本の森)

事実認定を考える

民事裁判において,上記したように,要件事実についての事実認定が重要だし(民事訴訟法上の事実認定についての約束事もある。),それらについての実務的な研究もなされている。

「民事訴訟における事実認定」(司法研修所)

「事実認定の考え方と実務」(著者:田中豊) (Amazon・本の森)

「紛争類型別 事実認定の考え方と実務」(著者:田中豊) (Amazon・本の森)

「民事実務認定と立証活動 第ⅠⅡ巻」(著者:加藤 新太郎他) (Amazon・本の森)

しかし実際の判決には,「新様式判決書」の「争点」に引っ張られたとんでもない事実認定も多い。従前の実務を含めて裁判所の事実認定を見直す視点は,ベイズ確率や統計の科学的手法等であろう。

3冊の参考本を挙げておく。

「数理法務のすすめ」第1,2章(著者:草野耕一) (Amazon・本の森)

「法律」第2章(著者:太田 勝造) (Amazon・本の森)

「法統計学入門」(著者:マイクル・O・フィンケルスタイン) (Amazon・本の森)

私が目指していることは,法をめぐる現象についての論理性と科学性の確保であるから,ここも重要な論点となる。

引用

民裁教官室だより(10)

新様式による判決起案の指導上の留意点

これまでにも断片的に触れてきた、が、修習生に新様式で判決を起案させる場合において、教育的効果を上げるという観点から、指導上留意すべき点を整理すると、次のとおりである。

〔ブロック・ダイアグラム〕

第一に、修習生か新様式の判決書を起案する場合、在来型の判決起案であれば起案自体で当然されるはずである攻撃防御方法の構造及び主張立証責任の分配などについて、要件事実的観点からの吟味が不十分になるおそれがある。そこで、修習生が、主張整理について要件事実の検討をして、攻撃防御方法の構造についての理解をしていることを確認する趣旨で、判決起案のほかブロック・ダイアグラムも作成、提出して、指導を受けることを原則としたい。

〔認定事実と証拠との照合表〕

第二に、修習生か新様式の判決書を起案する場合、在来型の判決起案であれば当然されるはずの認定事実と具体的証拠との結び付きについての検討が不十分になるおそれがある(もっとも、新様式判決書のモデルー例えば、モデル4-によっては、そのようなおそれのないものもあろう。)。そこで、修習生か、そのような面の検討をしたことを示すために、判決起案のほか認定事実と証拠との照合表も作成して、指導を受けることを原則としたい。この認定事実と証拠との照合表は、それを作成する目的が達成できればよいのであるから、その形式は自由である。例えば、証拠原因の数が少ないものであれば、ブロック・ダイアグラムの当該事実の余白に注記するような形のものでも足りる。

〔書証の成立メモ〕

第三に、修習生か新様式の判決書を起案する場合、書証の成立の真正についての認定をなおざりにする例が増加することが予想される。そこで、修習生か、その点についての検討をしたことを示すために、書証の成立メモとでもいうべき覚書を判決起案とともに提出して、指導を受けることを原則としたい。この書証の成立メモの形式も適宜のものでよい。

以上の留意点は、修習生に対しては、前期最終講義の中で伝えられているから、指導裁判官が格別の指示をしなくても、修習生が自発的にそのような対応をすることと思われるが、それを怠る者に対しては、注意を喚起するようにしていただきたい。

(注)従前、新様式判決書、ブロック・ダイアグラム(認定事実と証拠との照合を余白に記載したもの)、書証の成立メモを三点セットと呼んだことがある。