法解釈を考える

裁判所や弁護士,学者はいつも「法解釈」をするが,一体「法解釈」とは何なのか,なぜ必要なのか,その方法論は何かということは,実は極めてむつかしい。「裁判と事実認定」で検討した「要件事実」も,権利発生根拠事実と権利発生障害事実等を念頭に置いた「法解釈」である(ただし,検討する法令の範囲が,民商法中心でさほど広くない。)。

「立法」がしっかりしておれば,「法解釈」の余地は減少するのか。常識的にはイエスだろうが,果たしてそうか。自然言語論,論理学の検討なしには,回答は出ない。

法解釈を論じた本はいろいろあるだろうが,当面,ここでは次の本を紹介しておきたい。なお,参考までにこの本で論じられている「法解釈の構造図」を掲記しておくが,このままでは消化できないだろう。原本に当たることをお勧めする。

「法解釈講義」(著者:笹倉秀夫) (Amazon・本の森)

立法を考える

実務的に立法を考える

立法については「法とルールの基礎理論」を踏まえることが重要であるが,ここでは「実務的」な問題について検討しよう。

実務的に立法を考えるためには,まず法令を読めることが重要だ。それを踏まえて立法学を考えよう。

法令を読む

これはたくさんの参考本があるが(「地方自治法務」の分野でも取り上げた。),ここでは,当面,次の2冊を紹介しておきたい。

「条文の読み方」(法制執務用語研究会) (Amazon・本の森)

「税法の読み方 判例の見方」(著者:伊藤義一) (Amazon・本の森)

立法学

私は,我が国の現時の「立法」のあり方に批判的だが,それについてだいぶ前に「<日本の立法>批判序説」をアップしているが,「AIと法」を踏まえ,内容を再考してみたい。

ここでは,立法学を冠した次の参考本を2冊を,紹介しておく。これらは目次を見ていてもなかなか興味深い。

「立法学講義」(著者:大森政輔他) (Amazon・本の森)

「立法学 序論・立法過程論」(著者:中島誠) (Amazon・本の森)

上記2冊及び「法解釈講義」の詳細目次を作成しました(こちらでリンク)。

法解釈の構造図

生じた紛争を法律にもとづいて処理しているとき,人は頭をどのように回転させているか。

(ⅰ)かれはまず,処理の基準となりそうな法文(制定法などの法源が明示する語句,ないしその条文全体)に目星を付け,それと照らし合わせつつ諸事実から法的に重要な要素を選び出す(主要事実を構成する)。

(ⅱ)かれは次に,主要事実をにらみながら,目星を付けた法文に関し,どの点で妥当しどの点ですんなりとは妥当しないか等,射程(「本来,意味しているところ」)を確認する(=狭義の「解釈」だが,法解釈の場合には,すでにここで「適用」のことをも考慮している。その際には,<この法文をこういうかたちで使うことが,論理的・歴史的に可能か>だけでなく,<妥当な結果をもたらすか>をも考える。(つまり,ここで「解釈」とは,「意味の確認」である認識作業を前提にするが,同時に「意味の構成」,すなわち(許された範囲内で)好都合な意味を「引き出す」意味付与行為をも中身とする。)

(ⅲ)かれは最後に,ある方向への帰結がその法文から理路整然と,その法文が主要事実を包み込む(包摂する)かたちで出て来たかのように論述する(=「適用」面での仕上げをする)。

「法解釈」とは,こうした態様で法の解釈・適用を進める作業である。この法解釈の作業態様を具象的にとらえるため,以下ではまず,法解釈の構造を提示する(図をクリックすると拡大されます。)。

 

 

 

 

 

 

紛争→主要事実の選択+法源の選択(制定法・慣習法・条理)

[A]法文自体の意味

[B]条文同士の体系的連関

[C]立法者の意思

[D]立法の歴史的背景

[E]「法律意思」(=正義・事物の論理・解釈の結果)

[イ]文字通りの適用

[ロ]宣言的解釈

[ハ]拡張解釈

[ニ]縮小解釈

[ホ]縮小解釈

[へ]もちろん解釈

[ト]類推

[チ]比附

[リ]反制定法的解釈

 

解釈時の参照事項 上段

さて,(1)上段の[A]~[E]が解釈の際に「参照することがら」,(2)右列の[イ]~[リ]が,解釈の際の「条文の適用の仕方」に属す。まず,これら両者が,相互に明確に区分されるべきである)。

図の左列は,(処理の基準になりそうだとされた)或る法文の意味を大枠において確定し事件の処理方向を定める作業に関わり,その際に参考にするものの一覧である。

すなわち,図のうち,[A]では,法文の,それ自体としての意味を考える(=他の条文との関連や立法者の意思,歴史的背景,法原理や政策論などは一応,度外視する)。これには。 ①常用の意味(日常生活における・法実務上での・科学上での一般的な使い方)を,とくに問題がないので採用するという場合と,②常用の意味があいまいであったり,意味をめぐって争いがあったり,常用の意味では不都合が生じたりする場合において,法学ないしその他の学問を応用して意味選択・意味確定をおこなう場合とがある。

[B]では,他の条文や法命題(法律・慣習法・先例・条理の)との関連で意味を絞る。この作業が重要なのは,①他の法律・条文を参照することによって,

使いたい条文の意味やその射程距離等が分かることがあるからである。また,②上位の法律ないし同位の法律と矛盾しない解釈が重要であるからである(とくに,法律等は,裁判所で憲法違反だと解釈されれば,無効となる)。

[C]では,立法者が明示した立法目的,条文についてのかれの定義,かれによる,その条文の体系的な位置づけ・先例との関係づけ(=先例はどうか;先例と違う場合,正当な理由があるか)等に従って意味を絞る。

[D]では,その条文・それを含む関係法律がつくられた歴史的背景などの客観的な事実を参考にして意味を絞る。

 

しかし,これら[A]~[D]を参照しても,それらだけでは決め手にならないとか,それらだけで決めるとまずい結果を生むとか,そもそも参照しようにも適当な資料がないとかといったことがある。

そこで,[E]で,解釈者は,主体的に次の点を考えつつ,意味を確定する際の方向性(「落としどころ」)を得る:①問題となる条文・制度や関係の本来の目的は何か,それに照らして現状にはどういう問題点があるか,②(紛争の原因・経過・解決方向が)正義にかなうか,③問題になるものの根本概念からの論理的帰結や,問題になるものが前提にしていることに応えた(=「事物のもつ論理」に合った)運用ができるか,④この解決で妥当な結果が得られるか・この解決案がルール化しても大丈夫か(一般化可能性があるか),などである(これら①~④を総称してratio legis と言う)。

この[E]の考察から直接下段にいくこともあるが,また[E]に導かれつつ再び[A]~[D]の考察に立ち返って意味を確定することもある。さらには,それらの考察を踏まえた上で,再度,根拠に使いうる法源や主要事実を選び直すこともある。(罪刑法定主義や権力規制が重要な公法の解釈等では,[E]から直接右列にいくことはありえず,[E]の考察のあと,[A]ないし[B]を必ず媒介にしなければならない。)

以上のうち,[A]は文理解釈,[B]は体系(的)解釈,[C]は立法者意思解釈,[D]は歴史的解釈,[E]は「法律意思」解釈),と呼ばれる。

 

[イ]「文字通りの適用」

これは,法文の,①日常生活上の,②法実務上の,もしくは③科学上の,通常の意味に沿って解釈することである。構成要件が明確で,かつ「違法性あり」とする場合は,「文字通りの適用」でいっていることになる(「違法性なし」とする場合は,[ニ]縮小解釈をしていることになる)。

[ロ]宣言的解釈

意味が複数あったり,上述のようにこれは,法文が著しく漠然としていたり,明白な誤記であったりするときに,解釈者が主体的に定

義したり,中身を特定したり。 (対立する意味の中から)ヨリ妥当な,従来とは別の意味の方を選んだり,誤記を修正したりしつつ適用する作業である。

[ハ]拡張解釈

通常の用法としてはαの概念に入らないが,他の条文との関係,立法者の意図,立法時の歴史的背景,規定の通常の目的・常識・正義・政策的判断など(以下,「諸事項」と記す)にもとづくと「本質的類似性」が極めて高いと判断されるβを,αの概念に入れて(αの一種として)扱うこと)。

[ニ]縮小解釈

通常の用法としてはαの概念に入るβに関して,「諸事項」を参照して, αのルールを適用しない。つまり,ある種の配慮にもとづいて,αの概念を縮小しその適用からβを除外する。これが「縮小解釈」である。

以上四つの場合には,適用すべき法律がない(欠訣している)とは認識されていない。

これに対して次の四つの場合には,法律が欠缺しているとの認識が前提になっている。

[ホ]反対解釈

βについて問題が生じたが,βについての条文がない。この場合に,「諸事項」を参照して,βと中身と程度が対比できそうなαについて条文があるので,それを参考に使って,たとえば,①αはこういう特徴が理由となって禁止されているが,βはそういう特徴をもたないので(すなわちαとちがうので)かまわない;②αはこういう特徴が理由となって保護されているが,βはそういう特徴をもたないので(αとちがうので)保護されない,等々と解釈すること。

[へ]「もちろん解釈」

βについて問題が生じたが,βについての条文がない,この場合に,「諸事項」を参照して,βと対比が或る程度は可能なαの条文を参考にしてβを処理するのだが,その際の論理として,①aが禁止されているなら,βはなおさら禁止される必要があるとして,α禁止の条文をβに適用する;あるいは,②αが保護されるならβはなおさら保護されるべきだ,等々とするのが,「もちろん解釈」である。したがって,「もちろん解釈」は,あるところまでは類推と似るが,最後のところでは,βとαとの類似性ではなく,むしろβがはるかにαより危険だとか,βがはるかにαより大切だとかといったかたちで,βとαとのちがいが重要となる。

[ト]類推

βについて問題が生じたが,βについての法律がない。この場合に,「諸事項」を参照して,βと類似性が或る程度はあるαの条文を,αとの類似性を根拠にして,βに適用すること。

[チ]比附

「諸事項」を参照して,ある条文をベースにしてそこから一定の一般的な法命題を獲得し,関係する条文の規定とは異なる(類推も不可能なケースを処理するために使う技法である。

[リ]反制定法的解釈

これまで妥当してきた条文を,〈時代遅れだ〉と判断したり,<他の諸条文ないし,関係する法全体の趣旨と矛盾したり,正義や効果の点から考えて不都合極まったりしている>と判断したりする場合で,その事実が社会でかなり広く認識され問題化しているが,立法府が怠慢であったりして改正がすぐには期待できないとき,[E]法律意思に関わる判断によって<それはもう使わない〉として,別のやり方を採る(=別の方向に変更する)。これが反制定法的解釈(変更解釈)である。