この項目の構成と「弁護士業務の対象としての「AI時代の法」」の紹介

この項目では,DX・IT・AI法務への初歩的な入門として「Ⅰ DX・IT・AI法務へのアクセス」を掲載し,これまで作成してきた記事に若干手を入れて,「Ⅱ 「AIと法」を考える」,「Ⅲ 弁護士の仕事とPC・IT・AI技法」を掲載する。
なお,「法の支配」(2020年4月号)に「AI時代の弁護士業務」を執筆したが,これはこの項目との関係が深い。ここでは,「Ⅲ 弁護士業務の対象としての「AI時代の法」」を掲載しておこう。

1 AI時代の法について

これについては本特集の別の論稿で論じられているし,最近はAI法について刊行される本も増えている(私の手許にも20冊近くある)。特に「小塚荘一郎「AIの時代と法」(岩波新書:2019年11月)」は,AI時代の法の問題について,様々な観点を踏まえた見通しのよい議論をしており,頭が整理できるので紹介しておく。
以下,私が弁護士業務の対象としての「AI時代の法」を考える場合に,今行われている議論で特に留意すべきだと思う点,ないし不十分だと思う点だけ,簡単に指摘しておきたい。

2 AI時代の法と政策

現在,行政機関が先頭に立ち,AIについての法とルールの作成のみならず,「産業政策」としてのAI開発の方向性にさえ立ち入ってこれをリードしようとしている。率直に振り返れば我が国の「産業政策」が成功したことはほとんどなく(「高度成長」は,戦争による古い生産設備の破壊と人口ボーナスによるものであろう),GAFAMの発展や第五世代コンピュータの失敗を見ればわかるように,AIは自由な発想が不可欠な分野で,「役人」が介入するにもっとも不向きな分野である。
また法とルールは,国民の権利と義務を定めるわけだが,行政機関がお膳立てして作成される法やルールの妥当性について紛争が生じたとき,行政機関がどのような対応をし,わが国の裁判所が扱うのかということについて,リアルな認識が必要である(簡単にいえば内容以前に総力を挙げて訴えを却下しようとするのが「実務」である)。
このような実情を踏まえて,「民」は,行政機関がするAIについての法とルールや政策の提案に向き合うべきであろう。官民一体は,望ましいことではない。

3 AI時代の倫理

法は,国家が制裁付きで強制する規範であるが,社会規範や道徳等との関係はどうか,特にAI法は,AIという新しい現実についての規範であるから,根本的な価値に遡ってよく考えるべきであることに異論はあるまい。「西垣通等「AI倫理-人工知能は「責任」をとれるのか」(中公新書ラクレ:2019年9月)」は,人間と機械は違う,機械は意味,価値を理解しないという観点から,AI時代の倫理を考察している。西垣氏は,技術懐疑論者で議論がそこに集中しすぎる嫌いがあって必ずしも同意できない点もあるが,目前の利益の優劣で法やルールを作成しても,全体最適から見るといいことが何もないことは確かだろう。

4 AIの目的は何か

そもそもAIを研究・開発することの目的は何だろうか。「便利」になるなどということの優先度は極めて低い。
AIによって世界(人と情報・自然・人工物の動的関係)そのものが大きく変容する中で,持続可能な社会を築くことを最優先すべきことは当然であるし(気候変動,環境破壊,資源枯渇,原発事故,兵器の暴走,自然災害,疫病,地方衰退,インフラの壊滅等,AIが問題を整理し解決に役立つことが期待されている分野は山ほどある),その中で人間の生存が,意味や価値に充たされることが重要である。
AIがその方向を目指しているかどうか。自動運転車が,そこいら中を走り回る必要があるのだろうか。

 

Ⅰ DX・IT・AI法務へのアクセス

未だDX(・IT・AI)法務という固有の分野があるとはいえないだろう。これまでは,IT法務として,主として,個人情報,インターネット上のトラブル,システム開発等が取り上げられ,今AI法務として,「今後,IoTやAIが普及すれば何が問題となるか」を,既存の法的な枠組(行政畑の人たちは,様々な「審議会文書」)に基づいて検討しようとする試みがなされている。

それはそれでやむを得ないが,私はこれだけでは不満だ。「これからの社会を切り拓くDX・IT・AIを支えるプラットフォームとなるルール」こそ,DX・IT・AI法務である。一番の基本は,DX・IT・AIの現実の開発や使用の実態に即した「ルール」(合意)である。例えば我が国のこれまでのシステム開発をめぐる紛争の多発,惨状は,現実の開発や使用の実態に即した適切な「ルール」(合意)を,法律家が理解していなかったことが大きい。そこでは「要件定義」が不十分だったといわれるが,ではこれからのアジャイル開発手法によるDX・AIはどうなるのか。民法の改正が重大問題のようにいわれるが,それは「ルール」(合意)がなかった場合の処理に過ぎない。何度でもいうが,大事なのは,「今後,IoTやAIが普及すれば何が問題となるか」という仮想の問題ではなく,DX・IT・AIの現実の開発や使用の実態に即した「ルール」(合意)づくり,すなわち契約書の起案である。その検討は緒に就いたばかりである。

しかし既存の問題をマスターしておかなくてはならないのは,当然であるので,検討しよう。

DX・AI・IT法務実務書・体系書一覧

①法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典

②インターネット新時代の法律実務Q&A<第3版>

③IoT・AIの法律と戦略

④インターネットにおける誹謗中傷 法的対策マニュアル

⑤裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務

⑥IoTビジネスを成功させるための法務入門

⑦ビジネスマンと法律実務家のためのIT法入門

簡単なコメント

まずこの分野全体の「言葉」を理解するために,①「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典」(影島広泰編著)をお勧めする。用語だけでなく,間に挟まれた「法令・判例と実務」が参考になる。

②「インターネット新時代の法律実務Q&A<第3版>」(田島正広編著),ⅲ「IoT・AIの法律と戦略」(西村あさひ法律事務所)は,問題を網羅的に取り上げている。

インターネットトラブル対応には④「インターネットにおける誹謗中傷 法的対策マニュアル」(中澤佑一著)が,システム開発上のトラブルには⑤「裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務」(桃尾・松尾・難波法律事務所)がよい。IoTは,⑥「IoTビジネスを成功させるための法務入門」(中野友貴著)を紹介しておこう。

IoTやAIが喧伝される前にIT全般について緻密に検討した当事務所の石井邦尚弁護士著の⑦「ビジネスマンと法律実務家のためのIT法入門」も紹介させていただこう。