法とルール

前置き

私の友達に,診療所(医療法人)を経営,診療しているお医者さんがいる。彼が抱えている問題について,簡単なレポートを書いて見たので,デフォルメして紹介する。私と同年代の中高年のお医者さんの参考になるのではないかと思う。経済学徒と孫守り転じて,久しぶりの法律関連記事の投稿だ。

前提となる簡単な事実

診療所の売上は多く,報酬も少なくない。でもそうなったのは開業してからで,大学病院勤務時代は貧しかったという。

子供は,大学生だが,医者の途には進まなかった。

医療法人は持分あり法人で,余剰金が計上されている。

最近,MS法人で不動産を購入した。

税務署がやってきて,MS法人への経費支出の一部を問題にされた。

お医者さんは,MS法人で社会的に有意義なことをやりたいと考えている。

問題の所在とその考え方

(1)はじめに

上記の状況を一覧すると,良好な収入,資産状況にあり,特段の問題はないようにも思われる。

ただ医療法人の態勢,その年齢と子供の現況等を考えると,医業の承継ないし相続について,現在から十分な対応を考えておくのが望ましいといえよう(もちろん誰でも死後のことなどどうでもいいが,医療法人の剰余金は,放っておけば雲散霧消してしまう。)。

またこのような状況をもたらすために休みなく稼働しているが,そのような状況について再考し,その労力(収入)の一部を他の有意義な活動に振り向けるということも考えるべきである。

ただし,これらは今後相応の期間,現在の収入,稼働状況が継続することが前提であり,医療法人がトラブルに巻き込まれないような十分な防御態勢も考えておく必要がある(健康であることは当然である。)。

(2)医業の承継と相続

ア まず一般的に死亡時に保有する財産が相続の対象となることは当然であるが,このまま推移すると,医療法人の持分,及びMS法人の株式も,多額の相続財産となる可能性がある。

イ 現在,新規に設立される医療法人は,持分なし法人である(したがって,持分の相続ということはあり得ない。)。当局は今,強力に持分なし法人への移行を進めようとしているが,ほとんど移行は進んでいない。医療法人の理念で旗を振りながら,移行の際に医療法人に贈与税が課されることがあるなどといわれてまともに考える人はあまりいない(「持分なし医療法人」への 移行を検討しませんか?」参照。)。ただ将来,当局が強引に移行ないし持分あり法人に不利益を課すのではないかと危惧する人もいる。

医業の継続を考えると,持分権者の死亡時に,その相続人に医療法人から持分を払い戻すことがなくなるというのは魅力的である。医療法人に余剰があれば,医業に貢献した医師に「退職金」を支払えばいいのである。医業の承継も,評議員,理事の交代時に,「退職金」を支払うことで実行できる。

ただし本件では,子供による承継はなさそうなので,①第三者にどのタイミングでどのような費用を負担させて承継させるか,その時点で持分あり法人と持分なし法人のどちらがよいか,あるいは②第三者に承継させずに(相続時に)法人を解散して残余財産を分配するのか,ということを想定してみる必要がある。少なくても,現在の医療法人の余剰金が雲散霧消しない対応が必要である。

ウ 一般に,MS法人のメリットとして,事業面から,医療法人で実施できない事業を行なえる,経営負担の分散が行える,転用可能な不動産を取得できる,就業規則を分けることができる等,税務面から,役員報酬の支給を通じた所得分散。交際費の損金算入限度の増加,役員報酬の取得,軽課法人税率適用額の増加,共同利用設備の少額資産化,消費税の納税義務の判定等があるとされる(「メディカルサービス法人をめぐる法務と税務」(著者:佐々木克典))。

このように利用される場合もあるであろうが,実態としては,医療法人に課せられた業務制限,非営利性,剰余金の配当の禁止という規制を潜脱するために利用されているといわれる(特に最後)。ただこれも少しピントがずれていて,要は,剰余金について,医師に対する所得税45%が課税される報酬として持ち出すか,MS法人に経費として持ち出し,それを利用するかという問題である。しかし後者が否認されると,追徴課税等の問題が生じてしまう。

これらについて,MS法人の不適切な利用をやめさせるため,税務の前に考え直させそうとしたのが,「取引報告義務制度」と考えることができよう。

MS法人に対する経費支払の一部否認というのも,そういう問題であったと思われる。またその収入に継続性があるかも疑問である。

(3)MS法人によるビジネス

このように考えると,現時点では,労力(収入)の一部を他の有意義な活動に振り向ける方法として,MS法人に対して医療法人の余剰金をどう持ち出して,どう有効活用するかという問題の立て方はあまり適切ではないかもしれない。

それはさておき,まずどういう活動(ビジネス)が考えられるだろうか。

ありふれたアイデアであるが,医療法42条により定款にいれて…(略)…をすれば,直接あるいはMS法人外注して行うことができるのではないだろうか。これらにより医療費の増大を抑える方向性が見つかれば,社会的意義も大きい。

そしてこのような研究からMS法人が行うべきビジネスも見えてくるかもしれないが,実際は,なかなか魅力的なビジネスの開発はむつかしい。私は,Apple,Google,Amazonに絶えず心を揺すぶられてきた。小さくても,そういう揺さぶりのあるビズネスを探すのがよい。

(4)医療法人の防御

上記(2)(3)は医療業務が順調に推移することを前提としているが,思わぬ事態が発生してこれが瓦解することもあり得るから,十分な防御態勢を立てておく必要がある。

これまで,医療機関においてそのような意味で大きな問題となってきたのは,①医療事故(とその対応),②スタッフの労働問題,③診療報酬の不正請求等であるが,近時は,④行政が医療機関に求める様々な法規制についてこれを理解し適切に対応することも重要である。③はともかく,①②④は弁護士マターであるから,適宜相談されたい。

①は,仮にミスがあったとしてもどう適切に対応できるかが重要であるし,ミスがなかった場合も,放っておいていいわけではない。むしろこちらの対応の方が,こじれることが多い。②は,法令に定められたルールに従うということである。

④は,行政は「後出しじゃんけん」であれこれいってくることがあることを十分に理解すべきである。

これが,上記(2)(3)を進めるための前提となる。

 

法とルール

著者:佐々木隆仁

デジタル社会の難問、病理に向き合う

先日あった「シンポジウム 人工知能が法務を変える?」では、レクシスネクシスのトルコ人弁護士が「リーガルテック」という観点から、今後の弁護士業務のあり方を切り取っており、刺激的だった。その直後に本書の発刊を知り、早速入手してみた。著者は、AOSリーガルテックという会社の代表取締役であるが、本書は、会社で展開している、」あるいは今後展開したいと思っている事業から、会社色を抜いたからか、焦点が定まらない「報告書」という印象だ。強いて軸を求めるなら、現在のデジタル社会の難問、病理に向き合うのは大変だということであろうか。

まず問題が展開される場は、①アメリカ、②日本、③アメリカで事業する日本企業がある。これについて、デジタル情報が爆発的に増加している中で、ⅰアメリカの法律家が①について訴訟やeDiscovery、カルテル捜査、あるいは法情報を含む情報収集にどう対応しているかという問題、ⅱこれについて日本の法律家が③との関わりでどう対応するかという問題が、固有の「リーガルテック」の問題である。これから派生して、ⅲ②日本において、日本の法律家に、これらの流れが今後、どのように及ぶかという問題がある。

これらとは別に、ⅳデジタル情報が爆発的に増加しているデジタル社会の進展につよて、日本の社会全般に様々な難問、病理が生じており、これに向き合い対応することが必要であるという問題領域がある。この本の記述の主流は実はこちらであって、「リーガルテック」という署名がそぐわない気がするわけだ。

痕跡は消せない

この本の著者はもともと「ファイナルデータ」というデータ復元ソフトの開発・販売をしていたそうで、そういう中で、検察庁や警察の捜査に役立つ手段(フォレンジック)を提供してきたという歴史もよくわかる。

本書には、「Line の情報をデジタルフォレンジックでさらに解析すると、人間関係、行動範囲、考え方、趣味・嗜好など、あらゆる個人情報がわかってしまいます。それが、Line が犯罪捜査に活用されている理由です。」等、デジタルの痕跡は消せないこと、画像のフォーカス補正によって「見えないものがみえてくる」、「重要機密はハッキングではなく社内から漏れる」等々の記述もあって、デジタル社会の難問、病理がよくわかる。セキュリティも考え直す必要性を感じる。

楽しいかなあ

本書を通読して思うのは、デジタル社会の難問、病理に向き合う必要があるということだが、一番の問題は、「こんな社会は楽しいんだろうか。いつまでもこれでいいんだろうか。」ということである。少なくてもAIという切り口には夢がある。

 

目次

 

問題解決と創造の知識

アイデアをカタチにする仕組み造り

プラットフォーム

最近私は、アイデアをカタチにする仕組み造りに取り組もうと思っています。「アイデア」は、「思い」、「発想」、「夢」、「目標」等とも言えますし、「カタチにする」は、「実現する」、「解決する」、「創造する」とも言えるでしょう。もともと発明分野で使われていたものが、ビジネスの分野でも使われるようになったものですが、さほど一般的な表現ではないでしょう。ただビッグバン・セオリーの登場人物ハワード・ウォロウィッツが自分のエンジニアという仕事を「アイデアをカタチにするものだ。」と言っている場面をどこかで見かけたので、それなりに使われているのでしょうか。

最初は、ブランディングをしている年若のデザイナーの友人と共同で取り組めないかなと考えていたのですが、すぐには準備が整いそうにないので、まず私がWeb上で、そのプラットフォーム造りをしようと思います。

今考えていること

ところで今、私が考えていることは、クライアントが「アイデアをカタチ」にする新しい商品、サービス、システム、事業等を創造、起動することを、法務面から支援することです。

創造、起動の対象は、①Things(モノ)、②IoT、③サービス、④システム、⑤事業(組織)のブランディング、⑥事業(組織)のスタートアップ、⑦表現等々に分別することができるでしょう。

共同事業者のデザイナーもいない状態では、「アイデア」はクライアントから持ち込まれるしかありませんが、態勢が整えば、自分でもアイデア造りに取り組もうと思います。

あらゆることの複雑化に伴い、ビジネスのみならず科学分野でも様々なアイデアも又、加速度的に生み出されていますが、カタチになるのはごく一部です。大部分はそれでいいのでしょうが、でも「あのアイデアがGoogleに!アーア」ということもありますよね。もっともカタチになったもののうち、ヒット、大ヒットするのはごく一部でしょうが、でもカタチにしないと消え去るだけ。今のビジネスは、数撃つしかないベンチャーキャピタルの投資と似通っています。結果はどうなるにせよ、少しでも充実したカタチを造ることが重要でしょう。

アイデアをカタチにする仕組みの方法・システム

アイデアをカタチにする仕組みの方法・システムを5W1Hの観点から検討すれば、WHEN、WHERE、WHOが、「今、ここで、私たち」であることは明らかですから、WHY、WHAT、HOWを検討することになります。

ところで、「アイデアをカタチにする」ということは、見方を変えれば、マイナスの「問題」であればその「問題を解決する」またはプラスの「価値を創造する」ということです。そこで、アイデアをカタチにするWHY、WHAT、HOWについて、従前「問題解決学」(佐藤允一さん)ないし「創造学」(中尾政之さん)として議論されてきたことを、その方法の中心として検討したいと思います。さらにその源泉には発明的な問題の解決手法である「TRIZ」があります。

ビジネスを支援する法務

アイデアをカタチにする事業について、さて弁護士は何ができるでしょうか。

調査

まず弁護士としては、持ち込まれたアイデアをよく理解する必要があります。そして特にそのアイデアがこれまでの歴史や経緯の中で、どう位置づけられるのか、新規性があるのか、関連分野でどのような研究が進展しているのか、そのアイデアと他の権利との関係はどうか、そのアイデアをカタチにするために必要となる技術や知財は何か等々を、調査する必要があります。

起案

対象事業の進展に応じて弁護士がすべきことは、ルール化、制度化でしょう。

①ルール(外部ルール(法令等)や外部との合意、内部ルール)の設定、及び当該ルールによって展開するビジネス(ゲーム)の追跡、ルール逸脱への対応等に係る実行態勢の確立と整備、運用

②内外の情報流通へ対応とコントロール

③当事者についての合理的な契約関係による規律の設定

④これらに係る法務全般

プラスαとして。

⑤資金調達のアシスト

⑥人材確保のアシスト

⑦必要となった技術・知財の獲得のアシスト

⑧多言語対応

⑨事業進展に応じた関与者の心身の健全性への留意

分業と全体の把握・統括

これらは、少し事業の規模が大きくなると、一人の弁護士ができるようなことでありませんから、適宜分業しなければなりませんが、全体は一人の弁護士が把握し統括しなければなりません。

これからの準備

まず調査方法を具体化し、「アイデアをカタチに法務」については典型的なケースをモデル化する必要があります。

アイデアをカタチにする対象

私が考えている、アイデアをカタチにする創造・起業の対象である「商品・サービス・組織」等は上述のとおりですが、でも考えてみれば、私たちの身の回りには、「アイデアをカタチ」にしたいことが、山のようにあります。

それを「健康」、「学習」、「社会制度」に分けて検討したいと思います。

アイデア倉庫

ところで、アイデアの湧出を活性化するアイデアツールを集めた本(内容によって「アイデア・デザイン編」、「IT・AI編」、「経営編」、「心身の向上技法編」、「世界の構造と論理編」、及び「冷水編」に分けています。)を整理した「アイデア倉庫」を作成しました。

重要な本については、具体的に紹介していきたいと思います。