法とルール

依頼者が海外との仕事をする際,その仕事に弁護士として参加,支援するために必要となる準備事項・前提事項をまとめておく。なおこの項目については,日弁連が実務研修をしている事項が多いので,適宜それを引用する(日弁連「…」とする。)。内容について疑問があれば問い合わせていただきたい。

国際法と異文化理解

海外との仕事をするということは,日本国に属する私たちと,X国に属するY企業が向き合う関係だから,国と国との慣習,マナーである最低限の国際法を踏まえる必要がある。そうでないと思わぬ対立を招く。手頃な入門書として「国際法第3版」を紹介しておく。

また,人間対人間だからわかるだろうという前に,「異文化を理解する」姿勢を持つことが重要だ。これについては,まず「異文化理解 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養」という本を読んでみることだ。個別事案への対応はそれからだろう

国際貿易

日本企業が輸出入に関与することはそれこそ日常茶飯時だから,弁護士がその実務に関与することは少ないが,対象商品に問題が生じた場合に,その対応を依頼されることが多い。多いのは輸入商品であるが,交渉レベルで解決すればともかく,裁判,執行の問題になることも多いが,海外で回収できる場合は少ない。日弁連「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第1回 海外取引に関する法的留意点」及び「貿易実務~中小企業の海外展開を支援するために必要な知識を中心に~」が参考になる。

国際私法と国際裁判管轄,及び国際租税

国際私法と国際裁判管轄は,海外との取引に紛争が生じた場合に,どこの裁判所に管轄があり,どこの法律が適用になるかという問題である。法律学の一分野であり,論理適用の問題であるが,その実効性が問題である。日弁連「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第2回 海外進出に関する法的留意点」及び「国際取引分野における国際私法の基本体系と動向」が参考になる。

海外との取引に関する税務問題も重要である。日弁連「税務面を考慮した中小企業海外取引の法的構造」は得難い情報である。

国際契約

海外との仕事の出発点は契約だ。さすがにすべて口頭でというケースはないが,重要なことの検討が不十分な契約書が多い。国際契約については,英文契約書がモデルになるメースが圧倒的に多い。日本での契約書にもその影響がある。

英文契約書を学ぶには,まず「はじめての英文契約書の読み方」(著者:寺村淳)をじっくり読みこむのがいい。そのうえで,「米国人弁護士が教える英文契約書作成の作法」(著者:チャールズ・M・フォックス(原書:Working with Contracts: What Law School Doesn’t Teach You by Charles M. Fox)がよさそうだ。

日弁連の研修には,「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第3回 英文契約の基礎知識(総論)及び国際取引契約の基礎(各論)」,及び「英文契約書作成の実務」の「第1回 英文ライセンス契約書作成の留意点」「第2回 英文製造委託契約書作成の留意点」「第3回 国際販売店契約の基礎」がある。復習用にいい。

海外進出実務

アメリカ,EU,中国,韓国についてはすでに十分な蓄積があるし,割と身近に実例も多くて,見当もつけやすいだろう(EUは,分かりにくいところもあるが,まずJETROで情報収集すべきであろう。)。アジアについては,「海外進出支援実務必携」に網羅的な情報が記載されている。

ここではASEANを考える。

ASEANに企業進出する際の基本的な問題点は,日弁連「海外子会社管理の実務~ケーススタディに基づくポイント整理~」,及び「中小企業の海外展開サポートにおける法律実務~失敗事例から学ぶ成功ノウハウ~」に貴重な情報がある。

そのうえで各国別の情報を丹念に検討すればいい。日弁連の研修には,「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題」「第4回 現地法の基礎知識-中国法・ベトナム法」「第5回 現地法の基礎知識-発展途上国との取引の注意点」,「現地法の基礎知識-タイ法」,「現地法の基礎知識-インドネシア法」がある。

注意すべき点

金銭移動が伴う海外案件で注意すべき点だが,昔は外為法がとても大きな意味を持ったが今は基本的には事務的なことと理解していいだろう(日銀Web)。それに変わって今大きな意味を持つのが,マネーロンダリングである。これについて実務家は,今,細心の注意を払う必要がある(外務省Web)。そうではあるが,マネーロンダリングは,①犯罪収益,②テロ資金,③脱税資金の監視ということであり,①はさほど大きな拡がりを持つものではないし,②はかなり限定された時期,地域の「政治的な問題」である。③は国によって考え方が違う。また仮装通貨が多用されるとこれはどうなるのかという疑問もある。

 

 

日々雑感

第2回生産性シンポジウム

先週の金曜日(2018年3月30日),日本生産性本部が主催し,経産省が後援する「生産性シンポジウム(第2回)」を聞きに行った。2つのパネルディスカッションから構成されていたが,私は「サービス産業の生産性向上戦略」に興味深かったので,主としてそれを紹介しよう。

「サービス産業の生産性向上戦略」を聞く

パネラーは,ロイヤルホストの会長の菊地さん,旅館経営の針谷さん,労組から八野さん,デービット・アトキンソンさん(所説を「日本経済の問題は生産性が低いことらしい」で検討した。),モデレーターは村上さん(産業戦略研究所代表)である。

日本の生産性は,アメリカと比較し,製造業の平均が,69.7%,産業の4分の3を占めるサービス産業の平均が,49.9%であるという分析が前提となる。これをみれば,日本の今後の経済発展が,サービス産業の生産性向上にかかっているのは,一目瞭然だ。

興味深かったのは,現に経営している菊地さんと針谷さんの報告だ。

菊地さんは,供給力(人材)と,市場成長力の2軸の産業化モデルを考え,これまでの両者が高い場合の「規模の経済」(多店舗化による規模の成長と親和性のある事業)と,これからの両者が低くなる場合の「質の成長」(付加価値訴求型事業として規模ではなく質の成長を志向する事業。必要に応じて規模の縮小)を想定し,グループ内の事業を適宜,配置,展開しようというものだ。後者については「国産食材の活用,営業時間の短縮(ピークタイムに人員集中配置)などにより,スケールを戦略的に抑制することにより付加価値向上を図る」という指摘もある。実績もあがっているそうだ。

私が一番面白かったのは,針谷さんの報告だ。旅館経営ということから,その生産性にかかる問題が理解しやすいということもある。

針谷さんの指摘を何点か紹介すると,「経営者の不作為が最大の敵」である,市場参入と撤退を容易にするため「借入金の個人保証をなくす」,配偶者控除を撤廃する,地方税の電子納税化,IT化・機械化のため,どのよう装置があるのかの紹介や枯れた装置を安く提供する仕組みが必要,汎用ソフトに,自社の制度を合わせる,勘と経験に基づいた経営を科学化する会計の自計化,同業他社を比較する数値目標),旅館業特有の問題として,お客さん目線で不要なサービスはやめる,クレジットカード等の手数料の低減化)電子決済の普及),需要の偏在を少なくする(休日の取り方の見直し)等々。どれも極めて説得力がある。「IT化・機械化のため,どのよう装置があるのかの紹介や枯れた装置を安く提供する仕組み」については,私もよく考えてみたい。「IT 活用を妨げるもの-生産性上昇の方法」えは,別の角度から考えてみた。

アトキンスさんの報告は,「日本経済の問題は生産性が低いことらしい」で検討したことと重なるが,このままでは社会保障の制度からみると「姥捨山の再来」になる,最低賃金を1300円に,企業数を半分に,霞が関の半分を女性に,を実行しようということになる。舌鋒鋭い問題提起だ。基本的にはマクロサイドからのアプローチである。

労組の八野さんの基本は労働を大切にしようということで,生産性の向上は労働者をこき使うことではない,すなわち付加価値の向上は,人件費の縮小の問題だけではないということには異論がないであろう。

村上さんの報告,分析手法は,初めて聞いたことで時間もなく,すぐには飲み込めなかった。近著の「サービソロジーへの招待」で論じられているようなので,追って検討したい。

その他

実は,報告の間に,世耕経産省大臣が来て,政府の生産性向上に関する政策を要領よく報告した。政府もいろいろ対策を検討しているなと感心することも多かった。ただこの問題について本来的に政府に何ができるかという問題があるし,中小企業の承継という問題は,生産性の低い中小企業が消滅するのはやむを得ないという観点がないと,全体の足を引っ張ってしまうだけだろう。アトキンスさんも苦笑しているように見えた。

ただ生産性の問題は,今後の世界経済がどうなるかという難解で,予測困難な問題を含んでいるように思う。つまり,「限界費用ゼロ社会」,AI・IT化社会への趨勢の中で,生産性の向上が世界経済に何をもたらすかということである。これが私の今後の検討課題になる。

なおもうひとつのパネルディスカッションの「個人の学び直しや人材流動化・企業の新陳代謝による生産性向上」は,もっぱら企業の人事・組織の焦点が当たっていて私の関心からは,ずれていた。ただ,今後,企業の従業員の副業,複業を認める方向で,政府のモデル就業規則が改定されたということは,ある意味で衝撃だ。企業での労働者の位置づけが変わるということもあるし,そんなことに政府が「威力」を及ぼしていいのかということもある。

 

 

日々雑感

家庭菜園?

私は,2,3年前から家庭菜園をはじめ,ほぼ常時葉っぱの野菜を収穫して,朝の野菜ジュースに入れてもらっている。

というと,まともそうな話に聞こえるが,とにかく,私が畑を耕して肥料をまき,そのあとで孫娘が,花咲爺さんのごとく種を手一杯握りしめ,きっぷよくぱあっとまく。家庭菜園の先生が見たら目をむくだろう。

とにかくそれで芽が出たら,柔らかいうちに「収穫」する段取りだ,春菊が一番おいしいような気がする。大根は相当大きくなるまで放置し,「おおきなかぶ」のように,私と孫娘で「うんとこしょ、どっこいしょ」と引き抜いたのは楽しかった。

ついでにいうと,私の菜園は,花壇も兼ねていて,近所の花屋さんから安い鉢植えの花を買ってきて,野菜の周りに植えている。畑に植えると,日当たり,栄養がいいせいか,とても大きく,きれいに,長い間咲いている。冬になる前に植えた花なのに,今を盛りと咲いているものもある。

ただこの冬の間は,野菜は作らなかった。みなとみらいにあった野菜の種を売っていたDIYショップが閉店したので,種が買えず,植える機会を失してしまったのだ。

だんだん暖かくなってきたが,さてどこで種を入手しようと困っていた。

ガーデンセンター横浜は素敵なお店だ

昨日(2018年3月31日),用があって反町に行ったので,帰りに,ガーデンセンター横浜(サカタのタネ直営)に寄ってみた。実に素敵なお店だ。東急反町駅,京急神奈川駅からすぐだ。

私がよく行くお店は,長い間ずっと本屋と居酒屋だったが,今はどちらも足が遠のいている。本はAmazonで買い,居酒屋は帰りの電車(グリーン車に乗ったとき)となってしまったからだ。

だから時間をつぶす場所がなくて,ここ1週間ぐらいは,公園で花見だ。

このお店は,相当広いスペースに,多種多様な花や野菜の種や鉢植えが,所狭しと置いてあって,見るだけでも楽しい。そして見ているうちにあれもこれも欲しくなる。現物の野菜も売っているし,土や肥料も売っている。入らなかったが,喫茶コーナーもあった様だ。これから足しげく通おうと思った。そう,本屋,居酒屋が,ガ-デンセンターに様変わりだ。

種子とは何か

ところで,種について,次の記述を読んだことがあった。現代は,種子もややこしい。

「(文明崩壊後)運がよければ、放置された納屋から何年ものちでもまだ発芽する種の袋を探しだせるに違いない。だが問題は、現代の農業で栽培されている作物の多くがハイブリッドだということだ。これらは望ましい特徴をもつ二つの近交系を掛け合わせることで生産され、均一できわめて生産性の高い作物が収穫できるようになっている。あいにく、こうしたハイブリッド作物によって生産される種子は、同じ形質を保ちつづけることはない。これらは「純種を生む」ことはないため、毎年、新たなハイブリッドの種を植えなければならない。災害直後に本当に回収したいのは、 在来作物だ。 毎年かならず採種できる昔ながらの作物だ」(「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」(著者:ルイス・ダートネル))。