山ある日々

北アルプス舞台にした山岳救助の「フィクション」映画である。きれいな、あるいは荒れ狂う山、特に冬山のシーンをたくさん観ることが出来る。穂高だけではなく、八方尾根ははっきりと分かる。ネットで検索してみると、山のロケ地が、西穂高独標手前丸山付近、奥穂高岳山頂、奥穂高岳ザイテングラード上部バットレス、涸沢、本谷橋付近の斜面、河童橋、八方尾根(第二ケルン~八方池)、八ヶ岳(赤岳鉱泉前氷壁他)、立山(室堂、天狗平)とある。なるほど、8割方は、何とかその場面を思い浮かべることが出来る。

 これを演じた小栗クンと長澤サンは本当に冬山に挑んでおり、そこもすばらしい。山岳救助という、あまりにも報われることのない「世界」の屈折もそれなりによくわかる。

ただ、山好きで見に行った人は、絶句するか、苦笑するかのどちらかである。

まず、季節の設定が無茶苦茶である。確かに、秋山のつもりで行ったら、雪に遭遇して大量遭難死した立山の例はある。しかしそれにしてもなぜいきなり氷雪の山になるのか。

そして、これは確信犯であるが、どうして日本の山で「クレパス」に滑落して遭難するのか。しかも何度も、何度も。小栗クンは、なぜいきなり「クレパス」に飛び込むのか。

山をなめてはいけない。山の自然は厳しいし、天候も急変する。しかし、実際とあまりにもかけ離れた場の描き方は鼻白む。とにかくこんな映画を、山好きの人の家族や、これから山に行こうと思っている人が観たら、枯れ尾花に震え上がって、とてもじゃないが山に行かせる(行く)わけにはいかないと思うだろう。

残念ながら、映画を撮った人は、山の魅力についてあまり理解していないのだろう。だから小栗クンの「また山へおいでよ。」という台詞に全く説得力がない。

というわけで、山をある程度知っている人は苦笑しつつもそれなりに「楽しめる」が、山を知らない人に見せるのはやめよう。特にこれから山に行こうと思っている人もこれを山と思ってはいけない。もっとも、これからエベレストに挑もうと思っているひとには問題はないだろう。