複雑な問題群

MORE from LESS(モア・フロム・レス)  資本主義は脱物質化する (日本経済新聞出版) :アンドリュー・マカフィー

デジタル化する新興国  先進国を超えるか、監視社会の到来か:伊藤亜聖

問題の所在を考える

あたりまえのことだが、私たちは子や孫の世代においても「持続可能な世界」を、何とかして、作りあげなければならない。知恵なく気候変動等を放置すれば、人類の文明が大打撃を受け、子や孫の生存が危ういかも知れない。

ただこれは、資本主義以外にこれに代替する経済システムは見当たらないという状況下で、どういう方法があるかという問題である。一方、資本主義が、大量生産、大量消費、大量廃棄によって回転するシステムであるとすれば、ほぼ不可能である。どうすればよいか。

行儀良く消費を減らし、様々な規制で対応しましょうという話もあるのだが、昨今の、テクノロジーに支えられたデジタル情報の氾濫・暴走を見ていると、そんなことは出来そうもない気がする。

「モア・フロム・レス」を読む

そんなことを考えていて「モア・フロム・レス  資本主義は脱物質化する:アンドリュー・マカフィー」という本を目にした。要は、アメリカを含む先進国で資源消費が減少しつつあり(脱物質化)、しかも付加価値は増加している。それは、①資本主義と②テクノロジーの力によるのであり、更にこの「モア・フロム・レス」を支えるのは、③反応する政府と④市民の自覚、併せて<希望の4騎士>であるとする。著者は、MIT経営大学院の先生で、私も共著だが「機械との競争」や「一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略―テクノロジーを武器にするために必要な変革 」を持っていた。立論は分かりやすいが、問題は、資本主義の論理に従ったテクノロジーの駆使によって先進国で資源消費が減少しつつあるのかという事実確認の問題と、そうではあっても、これらの先進国のフットプリントは大幅に正常値を超え、減少しつつあるという趨勢だけでは駄目ではないのかということである。

そのあたりを確認した上で、テクノロジーによる脱物質化に希望が持てるのであれば、③反応する政府と④市民の自覚の実現に突き進む勇気がわいてくる。

いや仮にそうであるとしても、先進国以外の新興国はどうなのか、これから先進国以上の資源消費に向かうのではないかという疑問がもたげてくる(もちろん、抑圧すべきことではなく、ある当然の「権利行使」であることは間違いないが、地球環境はどうなるか。)。

「デジタル化する新興国」を読む

そこで、「デジタル化する新興国  先進国を超えるか、監視社会の到来か:伊藤亜聖」を手に取ろう。当面の私の関心は、新興国は先進国を追随して、大量生産、大量消費、大量廃棄の道をたどろうとしているのかということである。この本を読むと、新興国が重苦しい重工業や固定電話のインフラを飛び越して、いきなりデジタルの世界に、場合によってはわが国よりはるか先に飛び出そうとしていることが分かる。もう世界の目は、資源を浪費して、重苦しい物質を扱うことに向いていない。この本の課題である新興国の今後の経済発展とわが国の有り様はしばらく横に置くとして、「モア・フロム・レス」と「デジタル化する新興国」の論陣がある程度正しいのであれば、私たちが何をすべきかが少し見えてくる気がする。

次の4冊

そこで見通しが立てば、資本主義から逸脱しない「資本主義の再構築 公正で持続可能な世界をどう実現するか:レベッカ・ヘンダーソン」を読んで更に資本主義のテクノロジーの知恵を磨こう。

でも上滑りしないか。

そういうときは、「世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史:ルイス・ダートネル」で地球が人類に与えたものを確認し、「テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス:カール・B・フレイ」で、テクノロジーの歴史を確認し、更に焦点のPCテクノロジーについて「TOOLs and WEAPONs―テクノロジーの暴走を止めるのは誰か:ブラッド・スミス, キャロル・アン・ブラウン」を読もうではないか。

この4冊については、追って取り挙げよう、

MORE from LESS(モア・フロム・レス)  資本主義は脱物質化する (日本経済新聞出版) :アンドリュー・マカフィー

著者側の情報発信

「経済が成長すれば資源の消費量が増えるに決まっている」、「資本主義と技術が進歩し、社会が豊かになれば、自然環境はダメージを受ける」――産業革命以降、人間が繁栄すればするほど、地球を壊してしまうという予想が無批判に信じられてきた。
だが、実際にはどうであったのか。予想とはまったく逆のことが起きたのだ。資本主義は発展し続け、世界中に勢力を拡大し続けているが、同時にテクノロジーが資源を使わない方向に進歩した。
人類はコンピュータ、インターネットを始めとして多様なデジタル技術を開発し、消費の脱物質化を実現させた。消費量はますます増加しているものの、地球から取り出す資源は減少している。デジタル技術の進歩により、物理的なモノがデジタルのビットに取って代わられた。かつて複数機器を必要とした作業は、いまやスマホ一つで事足りる。なぜ経済成長と資源の消費を切り離すことができたのか?脱物質化へと切り替えられたのはなぜか?このすばらしい現象について、なぜそれが可能となったのかを解き明かし、どんな可能性を秘めているのかを記していこう。
テクノロジーの進歩、資本主義、市民の自覚、反応する政府――「希望の四騎士」が揃った先進国では、人間と自然の両方が、よりよい状況となりつつある。この先の人類が繁栄し続ける道がここにある。

詳細目次

  • はじめに
  • 第1章 マルサス主義者の黄金時代
  • 第2章 人類が地球を支配した工業化時代
  • 第3章 工業化が犯した過ち
  • 第4章 アースデイと問題提起
  • 第5章 脱物質化というサプライズ
  • 第6章 なぜリサイクルや消費抑制は失敗するか
  • 第7章 何が脱物質化を引き起こすのか──市場と脅威
  • 第8章 アダム・スミスによれば──資本主義についての考察
  • 第9章 さらに必要なのは──人々、そして政策
  • 第 10 章 〈希望の四騎士〉が世界を駆け巡る
  • 第 11 章 どんどんよくなる
  • 第 12 章 集中化
  • 第 13 章 絆の喪失と分断
  • 第 14 章 この先にある未来へ
  • 第 15 章 賢明な介入
  • 結 論 未来の地球
  • 謝辞

デジタル化する新興国  進国を超えるか、監視社会の到来か:伊藤亜聖

著者側の情報発信

デジタル技術の進化は、新興国・途上国の姿を劇的に変えつつある。中国、インド、東南アジアやアフリカ諸国は、今や最先端技術の「実験場」と化し、決済サービスやWeChatなどのスーパーアプリでは先進国を凌駕する。一方、雇用の悪化や、中国が輸出する監視システムによる国家の取り締まり強化など、負の側面も懸念される。技術が増幅する新興国の「可能性とリスク」は世界に何をもたらすか。日本がとるべき戦略とは。

詳細目次

  • 序 章  想像を超える新興国
    • インドを走る「コネクテッド・三輪バイク」  中国で進む遠隔医療  南アフリカの女性エンジニアたち  デジタル化は新興国をどう変えるか  本書の概要  新興国とデジタル化の範囲について
  • 第1章  デジタル化と新興国の現在
    • 1  新興国デジタル化のインパクト
      • 「第四次産業革命」論  2010年代の変化  新興国へと広がる情報化の波  広がるデジタル経済の生態系
    • 2  デジタル化とは何か
      • ネグロポンテの予言  唯一外れた予想  デジタル経済の特徴  恩恵とリスク
    • 3  新興国論の系譜に位置づける
      • 三つの段階とその論点  南北問題の時代  工業化の時代  市場の時代  新興アジアと変わる日本の役割  そしてデジタル化の時代へ  仮説──増幅される可能性と脆弱性  導き糸──デジタル化の温故知新
  • 第2章  課題解決の地殻変動
    • 1  プラットフォームによる信用の創出
      • 「なぜより安全に車に乗る手段がないのか?」  プラットフォームがもたらす信用  アリペイによるエスクローサービス  アフリカで広がるモバイル・マネー  南アジアに広がるフリーランス経済  携帯電話の爆発的な普及
    • 2  ベンチャーによる「下から」の課題解決
      • エチオピアのベンチャー企業  南アフリカの精密農業とスマート漁業  「これで十分」な解決策──中国の物流  ベンチャー投資の拡大  アフリカに広がるテックハブ  インド工科大学デリー校のベンチャー企業
    • 3  技術革新から社会革新へ
      • SDGsとのつながり  金融包摂と農村振興  インドの個人認証と貧困層への直接給付  ミス・ギーク・アフリカ賞  R&DからR&D&Dへ  「アナログな基盤」の重要性
  • 第3章  飛び越え型発展の論理
    • 1  デジタル時代の「後発性の利益」
      • 新興国から生まれるユニコーン企業  タイムマシン経営とイノベーション  スーパーアプリの誕生  小さな革新、関連産業の未成熟、競争維持
    • 2  甦る幼稚産業保護論
      • 輸入代替デジタル化  対称的なインドと中国の戦略  グレート・ファイアーウォールがなかったら  壁のなかでの革新  土台を作り、後は競争に任せるインド
    • 3  再び問われる社会的能力
      • 規制のサンドボックス制度  鄧小平のナラティブ  中国の「やってみなはれ」  小国のデジタル戦略  新興国からの逆輸入と横展開  新興国という巨大な実験場
  • 第4章  新興国リスクの虚実
    • 1  インフラでの限定的な役割
      • デジタル社会を支える基幹的技術とインフラ  物理層、ミドルウェア層、アプリケーション層  クラウド化の進展  クラウド市場の寡占化  プログラマー不足  オープンソースへの貢献不足
    • 2  デジタル化と雇用の緊張関係
      • 製造業が雇用を生まなくなる?  デジタル経済の雇用規模  自動化で失われる雇用は 47%か9%か  新興国の仕事の自動化は早いか、遅いか  デジタル化が作り出す仕事  インフォーマル化する雇用  新興国の逆説的な強み
    • 3  競争を歪めるプラットフォームと財閥
      • プラットフォーム企業と競争法  財閥とベンチャー  過度の悲観を超えて
  • 第5章  デジタル権威主義とポスト・トゥルース
    • 1  アップデートされる権威主義
      • 分断されるインターネット  権威主義国家でデジタル化が進む理由  幸福な監視国家?  米欧日にも共通する問題
    • 2  フェイクニュースと操られる民主主義
      • ポスト・トゥルースの潮流  東南アジアの「ストロングマン」  取締法のリスク  SNS上での情報戦
    • 3  米中「新冷戦」とデジタル化
      • デカップリングと5G  中国のデジタル・シルクロード  デジタル領域での中国の影響力  空撮の民主化、空爆の民主化  デジタル化の「いいとこどり」は可能か
  • 第6章  共創パートナーとしての日本へ
    • 1  可能性と脆弱性の行方
      • 本書の主張  再定義される「新興国」、そして「先進国」
    • 2  コロナ危機による加速
      • コロナ危機のダメージ  パンデミックがデジタル化を加速させる  感染症対策と個人情報のジレンマ  危機のなかで普及するサービス  遠隔の限界とインフォデミック  米中対立の激化、中印対立の顕在化
    • 3  日本の国際戦略と複眼的対応
      • デジタル化の時代に求められること  新興国の可能性を広げる  ボトムラインを守る  国内での社会実装のために  手を動かし、足を使って
  • あとがき 参考文献

 

人の心と行動,本の森,組織の問題解決,複雑な問題群

夜長に読むこの10+2冊

よそに鳴る夜長の時計数へけり  杉田久女

孫娘の「けろけろ時計」の不規則に叫ぶ「実家にカエラセテいただきます」、「この部屋好きケロ」、「夢は自分で見つケロ?」との声を数えながら、秋の夜長に読むこの10冊を選んでみた。というより、今このWebに手を入れていて大分形ができてきたが、ずらずらと参考本を並べるのはそろそろおしまいにして、柱になる何十冊かの本をしっかり把握して発信していかなくてはならない状況になったと思うので、比較的最近入手して柱にしようと思っている本を10冊選んでみた。これにあと2、30冊付け加えれば、おおよその道筋は開けるだろう。

10+2冊

  • 正義を振りかざす「極端な人」の正体 :山口 真一(Amazonにリンク
  • アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治:吉田徹(Amazonにリンク
  1. ソーシャルメディアの生態系:オリバー・ラケット, マイケル ケーシー(Amazonにリンク)(「The Social Organism: A Radical Understanding of Social Media to Transform Your Business and Life」(Amazonにリンク
  2. あなたの脳は変えられる―「やめられない!」の神経ループから抜け出す方法:ジャドソン・ブルワー(Amazonにリンク
  3. BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは:青砥瑞人(Amazonにリンク
  4. 集団と集合知の心理学:有馬淑子(Amazonにリンク
  5. 持続不可能性-環境保全のための複雑系理論入門:サイモン・レヴィン(Amazonにリンク
  6. 崩壊学・人類が直面している脅威の実態:パブロ・セルヴィーニュ, ラファエル・スティーヴンス(Amazonにリンク
  7. Come On! 目を覚まそう!―ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 ~環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか? :エルンスト・フォン・ワイツゼッカー,アンダース・ワイクマン(Amazonにリンク
  8. 出現する未来から導く ― U理論で自己と組織、社会のシステムを変革する :C・オットー・シャーマー, カトリン・カウファー(Amazonにリンク
  9. 経営改革大全 企業を壊す100の誤解 :名和高司(Amazonにリンク
  10. ビッグ・ピボット ― なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか :アンドリュー・S・ウィンストン(Amazonにリンク

 

簡単なコメント

最初の2冊は「柱」ではなく、最新のネットとそれを大きな原因とする混乱した現在の政治の情況を把握するための情報本である。そうすると10冊にはあと2冊だが、それは最近別に投稿記事にしている「集団と集合知の心理学:有馬淑子」と「BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは:青砥瑞人」を加えることにしよう。

ⅰは、上記2冊の震源ともいえるソーシャルメディアのプラス面とマイナス面を新しい世代の感覚として取り上げており、検討に値する。

ⅱは、「やめられない! 」の神経ループから抜け出す方法!を「マインドフルネス」から解明する非常に説得力のある依存症脱却(及び目標達成)の基本とするに足りる本、ⅲはそれをもう少し細かく脳の機能と結び付けて説明する本、ⅳは、集団(組織)を社会的認知も含めて解説し、更に新しい科学的方法も簡潔に説明してくれる親切本である。ここまでが、現実、個人、組織を捉える基本的な観点を得ることの出来る本である。

ⅴからⅷは、持続可能性を論じた本である。なお持続可能性については、様々なアクセスがあるので、一概に論じられないが、私はローマクラブ-システム思考系が十分な検討をしていると考えているので、それ(ⅶ、ⅷ)を紹介する。
ⅴは今までまったく私の視野に入っていなかった本で、著者は数理生物学の専門家で複雑系と持続可能性をつなぐ議論が期待できそうである(ただ字も小さいし難解そうである。これを読まずして何を読むかという気概で挑もう。)。ⅵは、フランスの学者の本で「自然環境、エネルギー、社会システム、農業、金融…など多くの分野で、現行の枠組が崩壊間際になっている現状をデータとともに提示する驚嘆のレポート」という紹介だが、冷静に読むこむ必要がある。
ⅶはローマクラブのメンバー(ドネラらではない)の最新作で、資源、気候、情報、資本主義等々について、最新の議論を展開している。持続不可能性を理解するこの1冊といえば、これだろう。
ⅷはシステム思考を進化させたU理論で、自己と組織、社会のシステムを変革しようというもの、私にとっては大分先の話しだ。

ⅷもビジネスを含んでいるが、視野は広い。持続可能性をにらみつつ、これからのビジネス論を展開しているのが、ⅸである。持続可能性をどう考えるかは「人それぞれ」としても、ビジネスの今後を考えるには、ⅸは不可欠な重要書だと思う。

それぞれの本の各論は、これから順次作成していくとして、この記事では詳細目次だけ掲載しておこう。

詳細目次

次の頁に掲載します。

人の心と行動,山ある日々,複雑な問題群

個の課題

私たちが、組織、環境、社会、世界の世界の複雑な問題群に向き合い解決していくためには、まず私が健康であり、かつ私の抱える問題-目標達成と依存からの脱却-を解決できる自立した個であることが重要である。

健康の問題は別に扱うとし、ここでは、目標達成と依存からの脱却-個の自立-を考えてみよう。

目標達成は重要な課題かも知れないが、依存からの脱却は私は関係ないという人もいるかも知れないが、煙草、お酒、食べ過ぎ、ネット、ゲーム、セックス等々、誰もが依存問題を抱えている。やめられない!!ことである。

これについて「人間の脳は…経験により快感回路(報酬系)を長期的に変化させる能力のおかげで、人間はさまざまなものを自由に報酬と感じることができ、抽象的観念さえも快いものにできる。突き詰めて言えば、人間の行動や文化の多くはこの現象に依存している。しかし残念なことに、その同じプロセスが、快感を依存症へと変化させてしまうのである」(快感回路 なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか:デイヴィッド・J・リンデン)。

私はここ(刺激-行動-報酬のプロセスの定着(習慣化))に個の自立問題の焦点があると思う。

目標達成を論じる本の論点は錯綜している

誰でも素晴らしい目標を設定しそれを達成したいし、依存からの脱却は喫緊の切実な課題である。しかしどうも取り組みが散漫ですぐに途絶してなかなかうまくいかない。この分野を論じた本は、トンデモ本、経験譚、心理学本等々を含んで厖大であるが、襷にも短すぎるものが多く、全体を俯瞰できる帯を得ることが難しい。

私も、絶えず自分を何とかしたいという思いがあるから折に触れて買ったKindle本は厖大であるが、「でもここはどうなんだろう」という感想を抱かせる本をいくら買っても実践に結びつかないのは当然である。特に、ヒトの行動、思考はすべて習慣であるから、それを改めればよいという「習慣論」は、そのとおりであるが、ではその習慣はどういう原理で構成されているのか、何を改めれば良いのかという観点で見たとき、多くの「習慣論」は習慣の原理、その改革方法が様々な分野、問題に渡っていて使いにくいものが多い。

そういう中で、ヒトの行動と思考が「刺激-行動-報酬」のループにあること、そして報酬系が重要であることに立脚して展開している次の2冊には、蒙を啓かれた。

  1. 快感回路なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか:デイヴィッド・J・リンデン
  2. あなたの脳は変えられる 「やめられない!」の神経ループから抜け出す方法:ジャドソン・ブルワー(Carving Mind)

これを基盤にして「目標達成と依存からの脱却」の方法を位置づけていくと、有効な見取図とマニュアルが出来そうだ。

そこでまず「目標達成と依存からの脱却」全体の俯瞰図を次の「論点表」に纏めてみた。

目標達成と依存からの脱却の論点表とその説明

論点表

目標達成と依存からの脱却の論点表

習慣論 ⑧

目標の達成

依存からの脱却

様々な技法(モチベーション) ⑥

脳のリセット ⑦

先延ばし ⑤

心身論とマインドフルネス ④

システム1とシステム2 ③

報酬系 ②

ヒトの行動と思考(刺激-行動-報酬) ①

 

論点表の説明

各説明

まず①②の核心は、上記の2冊でカバーできる。

③は、カーネマン等の二重過程論であり、頭に入れておくと良い。

④は、個の自立を支える、行動と思考の方法の基盤である。上記ⅱはこれに言及している。私の好みは、「なぜ今、仏教なのか―瞑想・マインドフルネス・悟りの科学 :ロバート ライト」 や、「心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明 :ダニエル・ゴールマン 、 リチャード・J・デビッドソン」 であるが、心身を伸びやかに機能させるものであれば、何でもいいわけである。

さらに①から④が整っても⑤「先延ばし」の魔の手が伸びてくる。次の本は、「私は、先延ばしをライフワークにしてきた人間だ。先延ばしの研究者としても、先延ばしの実践者としても、長年にわたり経験を積んできた」著者の書で、いろいろなことが書かれているが、その考案した「先延ばし方程式」から、先延ばしという悪癖を克服するための戦略も割り出せたということだから楽しみだ。①~④を踏まえて読み込めば、⑥⑦もカバーしている。

 ⅲ.ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか:ピアーズ・スティール

⑦は、上述したⅰⅱに頼ろう。

目標達成のための様々な技法と習慣論の説明

⑥の分野の本は、それこそ汗牛充棟である。

①~⑤に照らしてその意味あいを理解し、実践に結び付ければよいだろう。

例えば、私はかつて、コロンビア大学でモチベーション理論を教える社会心理学者のハイディ・グラント・ハルバーソンの「やり抜く人の9つの習慣」を紹介した。同書のまとめとして著者自身が次の9つの習慣を挙げている。

9つの習慣
  • 1.明確な目標を持っている。
    • 目標に具体性を与える Get Specific 
  • 2.if-thenプランの形で「いついつになったらやる」と計画している。
    • 目標達成への行動計画をつくる Seize the Moment to Act on Your Goals
  • 3.現状と目標までの距離に目を向けて「目標に近づくために何をすべきか」に焦点を当て、モチベーションを維持している。
    • 目標までの距離を意識する Know Exactly How Far You Have Left to Go
  • 4.成功できると信じている。同時に、成功は簡単には手に入らないと考えて、努力をおこたらない。
    • 現実的楽観主義者になる Be a Realistic Optimist
  • 5.最初から完璧を目指さない。失敗を恐れることなく、少しずつでも進歩することを考えている。
    • 「成長すること」に集中する Focus on Getting Better, Rather than Being Good
  • 6.どんな能力でも努力で身につけられると信じている。どんな困難でも「やり抜く力」を持って当たることができる。
    • 「やり抜く力」を持つ Have Grit
  • 7.意志力も鍛えれば強くなることを知っていて、習慣的に鍛えている。筋力と同じように、意志力も使いすぎれば消耗することを知っている。
    • 筋肉を鍛えるように意志力を鍛える Build Your Willpower Muscle
  • 8.誘惑をできるだけ近づけないようにしている。意志力で誘惑に打ち勝とうとはしない。
    • 自分を追い込まない Don’t Tempt Fate
  • 9.「やらないこと」でなく「やること」に焦点を置く。
    • 「やめるべきこと」より「やるべきこと」に集中する Focus on What You Will Do, Not What You Won’t Do 
さてどうだろう

この中には①~⑤の問題と⑥の様々な技法が、そして⑥の中でも、様々な方法、見方が混在していて、決してわかりやすく整理されているとは言えない。でも「個の自立の論点表」に位置づけて理解しようとすると、いきなり「やり抜く人の9つの習慣」を投げ出されるよりわかりやすいことは間違いない。著者には同じような本がKindle本に2冊あるが(「やってのける 意志力を使わずに自分を動かす」、「やる気が上がる8つのスイッチ」)、それを読みあさるより、目の前の本と「個の自立の論点表」を対話させる方が、はるかに生産的であると思う。

なお目標達成の技法は、「9つの習慣」でもいいのだが、もう少し心に食い込む技法を探すことにしよう。

また⑦習慣論は、上述したように、様々な分野、問題に渡っていて使いにくいものが多いのであるが、追って「個の自立の論点表」と照らし合わせて使えるものを選択しよう。当面、次の3冊を、「総合問題」として検討しよう。

     ⅳ.習慣の力 The Power of Habit:チャールズ・デュヒッグ
    ⅴ.ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣:ジェームズ・クリアー Atomic Habits
    ⅵ.スマート・チェンジー悪い習慣を良い習慣に作り変える5つの戦略:アート・マークマン

実践

目標を達成することの実践として、<学習する・表現する>、<上達する・創造する>があり、④「心身論とマインドフルネス」の自薦として、<自然を経験する>の項目を用意している。いずれもワクワクする活動だ。